確かに知的財産などいくつかの条項は全加盟国に対して適用を凍結されている。この部分は新規加盟国に対しても凍結される。しかし米国が仮にTPPに復帰すれば凍結が解かれて適用される。そうなってから「できません」では済まされない。

 さらに適用を凍結した条項の中には、国有企業の例外的扱いなどといった、ベトナムなど一部の国だけを対象とした項目もある。これらの条項については当然、新規加盟国には適用される。国有企業問題という中国が最も避けたい条項は最初から適用されるのだ。

 ちなみにTPPへの参加の意向を伝えてきている英国は、当然すべての条項の適用を前提としている。中国だけ特別扱いはあり得ない。

日本はどう向き合うのか

 結論として中国にとってTPP加盟のハードルが高いことは明らかだ。バイデン次期政権発足後TPPに対する方針を決めるまでの間、中国が次の一手をどう打ってくるかが注目される。なお台湾も加盟申請してくる事態も考えておく必要がある。

 日本は米中の駆け引きの中、どういうポジションで臨むのか、難しい選択になる。まず米国の復帰を最優先するのは当然だが、中国がそれを見越してボールを投げてきたときにどう対応するのか。中国は中国市場の魅力で産業界を揺さぶってくるだろう。そうした中で「軸をもった外交」ができるかが問われている。

 TPP11を成立させたのは安倍前政権時の戦略的な通商政策の成果として評価できる。しかしいまだ11カ国のうち批准は7カ国にとどまり、それ以外は国内調整が難航して批准のめどが立っていない。TPPの参加国を拡大することが日本の戦略であったが、英国の参加表明以外に目立った動きが見られない。タイなどASEANの中からの参加拡大が望ましいが、各国の国内状況はそれどころではない。

 また日本国内の体制も内閣官房のTPP等政府対策本部が司令塔で、西村経済再生担当大臣が担当だが、RCEPはASEAN全体が相手となる交渉なので歴史的経緯から経済産業大臣が担当大臣だ。日EU(欧州連合)経済連携協定は外務大臣が担当だ。こうしてすべて担当大臣が異なっている。

 安倍前政権では官邸主導外交で官邸が司令塔であったので、それでもよかったが、菅政権ではかつての外務省任せに逆戻りはしないか気がかりだ。来年は日本がTPPの議長国になる。バイデン次期政権に対するTPP復帰への働きかけと中国の揺さぶりへの対応という、両にらみの難しいかじ取りが迫られる。菅政権の通商戦略の正念場だ。

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