改革逆行の習体制の本気度

 中国のTPP加入へのハードルは結構高い。前稿で「TPPが1軍なら、RCEPは3軍」と書いた。それほど、TTP加入の際に満たすべき貿易自由化やルールのレベルは高い。そして「TPPに含まれるルールに従うこと」が新規加盟の加入条件であることは、明確に閣僚レベルで決定されている。

 中国は、この厳しい加入条件を本気で満たせると考えているのか、甚だ疑問だ。

 例えば、TPPは国有企業への優遇禁止など国有企業改革を迫る。習近平体制ではむしろこうした改革に逆行して、国有企業が民間企業を犠牲にする形で成長する、いわゆる「国進民退」が一段と鮮明になっている。

 かつて改革開放路線の下で、世界貿易機関(WTO)に加盟して国内改革を進めようとした頃の中国とはまるで違う。本気度を疑うのは当然だ。

 WTO加盟後の中国を見ても、さらに疑念が湧いてくる。改革を約束したとしても、中国が約束通り実施するかどうかだ。中国は2001年にWTOに加盟した際、例えば補助金の通報や透明性の確保など、多くの約束をしている。だが、20年たっても多くの約束が履行されていない。日米欧をはじめ、各国から長年問題視されている。今日のWTOの機能不全、規律の崩れの一因が中国にあることを忘れてはならない。

バイデン次期政権が始動する前の“駆け込み加盟”狙う?

 「TPPは米国主導の中国包囲網であるのに対して、RCEPは中国主導だ」という論者は多い。しかし、これはいずれも短絡的な思い込みだ。経緯、背景を押さえず、今の米中対立の状況からだけ見る癖があるようだ。

 RCEPは前稿でも指摘したように、中国ではなく東アジア諸国連合(ASEAN)主導で、運転席に座るのはASEANだとの自負がある。RCEP交渉はASEAN主導で開始され、ASEAN中心の原則が共同声明にも明記されている。ASEANは他のRCEP参加国と個別に自由貿易協定(FTA)を締結しており、RCEPはこれらを統合する構想なのだ。

 TPPの交渉については2010年に米国も参加する形でスタートした。日本は2013年に交渉に参加している。当時は今日のような対中包囲網の意識が明確にあったわけではない。むしろ、いずれ中国の外堀を埋めて中国を参加させ、国内を改革させる関与政策の意識さえあった。中国も内々に参加を検討してみたが、自由化の高さについていけないとの結論だった。

 しかし、激しく米中が対立する今日、中国はTPPを対中包囲網として受け止める。この包囲網を突破するのが最重要課題だ。そこに米国の大統領選挙の結果、バイデン氏が次期政権を担うことになることになって布石を打つ必要があった。中国の思考回路はこういうことだろう。

 「仮にバイデン次期政権で米国がTPPに復帰する事態になれば、中国にとってはTPPがより強い対中包囲網になる最悪のシナリオだ。しかもバイデン次期政権は現在のTPPを修正して環境・労働・人権などの新たな要素を付け加えてくる恐れさえある。そうなれば中国にとってますます加盟のハードルが高くなってしまう。

 将来中国が加盟申請しても、米国との激しい交渉が待ち受け、中国は明らかに弱い立場に置かれる。それを回避するためには、米国が復帰する前に先に仕掛けるのが得策だ」

 こう考えると“駆け込み加盟”も現実味を帯びてくる。

 これに関連して気になる論評がある。TPPから米国が離脱してTPP11の合意形成をする際、いくつかの条項は米国の復帰まで適用を凍結されている。その結果、中国にとって加入のハードルがかなり低くなっているので、中国の加入に問題は少ないとの指摘だ。

 しかしここには大きな誤解がある。少し専門的になるが、今後を見通すうえで大事な点なので付言したい。

次ページ 日本はどう向き合うのか