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RCEPの調印式に出席する中国の李克強首相(左)(写真:新華社/アフロ)

 日中韓、東南アジア諸国連合(ASEAN)など15カ国が参加する地域包括的経済連携(RCEP)協定が署名された。これをどう評価するか。

 どうも成果を強調した“大本営発表”の記事ばかりが目に付く。しかし過大評価は禁物で、環太平洋経済連携協定(TPP)が1軍だとしたら、RCEPは3軍レベルの貿易自由化だ。カンボジア、ラオスといった後発途上国やインドネシア、フィリピンなど扱いの難しい国々を抱えての長丁場の交渉で、日本の苦労と根気は並大抵でなかったのも事実だ。しかも、交渉妥結に中国の米中対立を巡る思惑が透けて見える。中国は日本を「仮想米国」として交渉に臨んでいた。

貿易自由化の度合いは3軍レベル

 まず、大本営発表によるお決まりの評価を挙げてみよう。

 RCEPにより、人口、国内総生産(GDP)ともに世界の3割を占める巨大経済圏ができた。RCEP参加国は日本の貿易総額のほぼ半分を占める。日本の自由貿易協定の対象が格段に拡大したことも重要だ。2017年時点で日本の貿易総額の23%であったのが、2018年のTPP、2019年の日EU(欧州連合)経済連携協定が発効して52%になり、そしてRCEPが発効すれば8割弱となる。

 タイミングもよく、新型コロナウイルスの感染拡大で世界がますます自国優先、内向き志向になる中で、貿易自由化がさらに進むことは評価すべきだ。

 特に、日本にとって最大の貿易相手国である中国と3位の韓国の間で、初めて自由貿易協定が結ばれた意義は評価できる。中国とも韓国とも二国間協定を結べる政治的環境にはないからだ。またTPPと違って、ASEANのメンバーの国々が一体的に参加していることも経済的、政治的に意味が大きい。問題はその中身だ。

 こうした自由貿易協定では、まず関税撤廃率が注目される。RCEPは参加国全体で91%となり、決して高くない。自由貿易協定には明示的なルールがあるわけではないが、国際的な相場観、慣例というものがある。それは90%を超えることが目安だ。ちなみにTPPでは99%であった。

 しかも日本にとっては、中国と韓国の関税撤廃のレベルの低さが問題だ。日本からの輸入品で見れば、中国は86%、韓国は83%にとどまって及第点ぎりぎりだ。

 そして、関税撤廃率だけを見て輸出拡大につながるとするのは早計だ。

 15~20年間といった時間をかけて撤廃するものも多い。特に自動車部品がそうで、完成車は関税撤廃の対象外だ。電気自動車(EV)用電池材料の一部も16年目で撤廃するが、中国は2035年にはEVを50%にする計画で、16年後には既に勢力図は固まっている。

 即時撤廃する品目には、もともと数%の低関税品や、中国企業に価格競争力が既にあって関税を撤廃しても影響の少ないものが当然選ばれている。

 日本の経済界が歓迎するのは当然だが、輸出拡大の効果は限定的だ。大本営発表らしい「対中韓貿易に弾み」との見出しも、割り引いてみた方がよさそうだ。

 ただし、原産地証明など貿易手続きのルールの統一は地味だが、意外とビジネスの現場では重要だ。東アジアで部品供給網(サプライチェーン)を構築している日本企業にとってありがたいことである。見栄えがしないと取り上げないのが、メディアの悪い癖だ。