訪日客が激減した京都(写真:Nicolas Datiche/アフロ)
訪日客が激減した京都(写真:Nicolas Datiche/アフロ)

 国内旅行を喚起する「Go To トラベル」事業の方針が二転三転して大混乱した。そうした騒動に国民の目が奪われている中で、いつの間にか観光政策の重要方針が決定されていた。

 7月17日に閣議決定された経済財政運営のと改革の基本方針(骨太の方針)ではこう書き込まれていた。

 「ポストコロナの時代においても、インバウンドについて2030年に6000万人とする目標達成に向けて取り組む」

 発表された要旨にも書いていないので、ほとんどのメディアは気づいていないのか、この点に触れた報道はあまり見当たらない。政府はあえて議論になることを避けているかのような発表ぶりだ。

 果たしてそれでいいのだろうか。そもそもインバウンド政策で、まだ訪日客の総数という数値目標を繰り返すのだろうか。

 2020年の訪日客4000万人という政府目標は新型コロナウイルスの感染拡大でおよそ達成不可能で、事実上白紙に戻った。それは、観光政策をこれまでの延長ではなく、根本的に見直す絶好のタイミングのはずだ。しかし残念ながら結果は、これまでの延長線で「2030年6000万人」という目標がさらっと挿入されている。

 もはや訪日客の「量」を追い求める段階は卒業して、「質」を追求すべきではないだろうか。

オーバーツーリズムの弊害も深刻

 これまで「観光立国」の掛け声の下で、「インバウンド!」「インバウンド!」とひたすら拡大路線を突き進んできた。

 インバウンドが日本経済に消費増(2019年は4兆8000億円。ちなみに日本人の国内旅行消費は22兆円)をもたらす経済効果はもちろん重要だ。日本の場合、旅行消費の多くを占めているのが中国人旅行者による買い物である。さらに訪日観光をきっかけに帰国後も日本製品をネット通販で購入する効果も大きい。観光白書でもインバウンドが日本経済をけん引する「稼ぎ手」になりつつあるとしている。さらに国際比較をすれば日本のインバウンドの水準はまだまだ低く、拡大の余地が大きいとしている。

 しかし、こうしたマクロの経済効果ばかりをアピールする拡大路線一辺倒は、早急に修正すべきだ。ミクロを見れば、今では各地の観光地でオーバーツーリズムの弊害が深刻になってしまった。

 大挙して訪れる中国人旅行者の中には我が物顔で振る舞って、地元住民の住環境が破壊されているケースもある。地元住民の生活の足である市内バスも訪日客であふれて、地元住民が乗るのに苦労するという事態も生じている。京都など有名観光地は訪日客ばかりで、国内旅行者が観光をエンジョイできず嫌気がさして敬遠するという声も聞かれる。

 いずれも本末転倒で、これが「国民のための観光政策か」と文句も言いたくなる。

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