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米大統領選民主党候補のバイデン氏(左)と米トランプ大統領(写真:AP/アフロ)

 ジョン・ボルトン前米大統領補佐官(国家安全保障担当)の回顧録が出版されて、側近ならではのエピソードに注目が集まっている。

 米国の対中政策を考えるうえでトランプ米大統領と“オール・ワシントン”を分けて考えるべきであること、トランプ大統領自らの選挙対策としての単純な物差しは、貿易問題でのディールでの成果を重要州の支持層にアピールできるかどうかが判断基準であることなど、このコラムでもすでに2年前からたびたび指摘してきた(関連記事:関税合戦は序の口、深刻度増す“米中経済戦争” 2018 年7月11日)。

 こうしたことは今日では共通認識となっており、ボルトン氏の回顧録で書かれている内容自体は驚くものではない。しかしそれを側近として直接目の当たりにした人物の言葉で、具体的なエピソード付きで裏打ちされたことに意味がある。

 私も彼がブッシュ(子)政権時の国務次官であったとき、北朝鮮への密輸摘発で直接やり取りしたが、ボルトン氏の性格を考えると、多少“盛った”ところがあったとしても、うそを仕立てるとは考えにくい。今年11月の大統領選挙を控えて、トランプ氏が大統領の資質に欠けることを明らかにしたい、との彼らしい直情的な思いがあるのだろう。

トランプ氏だけではない、深刻なトランプ政権の構造問題

 しかし、今のトランプ政権の問題はトランプ大統領本人だけではない。オール・ワシントンにも深刻な構造的問題がある。

 米国議会では中国の強権主義への警戒感はかつてなく高まっており、矢継ぎ早に超党派での対中法案が提出されている。ポンペオ米国務長官やレイ米連邦捜査局(FBI)長官が発する警告や声明はこれらに呼応するもので、トランプ大統領による選挙を意識した発言や言動とは別物だ。連日のメディアの報道はオール・ワシントンが対中警戒感で一枚岩であることを示すものばかりだ。しかし問題は、それらを支える政権スタッフの実情だ。

 共和党の反トランプの多くの有能な人材は、トランプ政権発足以前から政権に参加しないことを表明していた。そのため、政権入りする候補人材は限られていた。さらにトランプ大統領の悪い意味での中小企業のオーナー的体質に嫌気が差し、発足後も政権を去る者が後を絶たなかった。その結果、現在の政権の体制、人材は甚だ心もとない。無論、そういうことを日本の政府関係者は口に出しては言わないが。

 ホワイトハウスのスタッフも、日本が模範にしようとしている国家安全保障会議(NSC)も国家経済会議(NEC)も、トランプ大統領の意向で陣容を大幅に縮小したため、かつての花形の面影はない。むしろボルトン氏が著書でも評価しているように、日本版NSCの方が、発足後から官邸主導外交を目指そうとしていた。

 本年4月から発足した国家安全保障局(NSS)の経済班も、本来米国のNECを目指したものだったが、本家のNECは新型コロナ対策で手いっぱいのため影が薄い。しかも経済評論家であるクドロー米NEC委員長はトランプ大統領の“太鼓持ち”に徹している。

 日本のNSS経済班は激化する米中対立の中で、「経済安全保障」の司令塔としての期待を背負って発足した。しかし肝心のカウンターパートである米国と深みのあるキャッチボールを期待できるか疑問だ。