韓国はなぜ勝ち目がないWTO提訴に突き進むのか?

 茂木敏充外相は6月2日、「当局間で対話が継続してきたにもかかわらず韓国が一方的に発表したことは遺憾だ」と述べた。確かに日韓の当局者間の対話を通じての理解は進んでいた。 しかしいくら日本のカウンターパートと対話して理解が進んでも、文政権はそんなことお構いなしの決定をするのが今の韓国だ。その背景については諸説ある。

 4月の総選挙に大勝して、対日政策もより“無謀”になるとの見立てもある。北朝鮮が南北関係の緊張を高め、国内経済の深刻度が増している状況で、国内政治的に「日本に負けない姿」が欲しいのかもしれない。

 あるいは、いわゆる元徴用工訴訟でこの夏以降、差し押さえた資産を現金化する手続きが進む可能性が出てきたこととの関連だ。個別許可のままだと、日本から恣意的運用で報復されかねないので、その前に決着しておきたかったというものだ。

 またあるテレビ番組では「世界保健機関(WHO)のように、WTOも中国の影響力が強まっているので、それを韓国は期待しての対応だ」と驚きのコメントをする人もいる。WTOの審査の実態も知らずに、このような稚拙な発言まで垂れ流されている。

 いずれにしても明らかに“無理筋の決定”だ。(WTO違反にはならないことは「補足解説3:誤解だらけの『韓国に対する輸出規制発動』」を参照)。

 「日本に譲歩を迫る戦術」との報道もあるが、脅しにもならず的外れだ。逆に譲歩と見られかねないので、かえって日本は動きづらくなる。せっかく再開した対話も続けにくい。こうした冷静な判断をできないのが今の韓国だ。いずれにしても日本は国際世論対策には抜かりがあってはならない。

「半導体産業に大打撃」だったのか?

 昨年7月に日本が輸出管理の厳格化を打ち出したとき、“有識者”やメディアは「韓国の半導体産業に大打撃」「個別許可で恣意的運用も」と騒いでいた。こうした日本の報道を受けて韓国が猛反発した面も否めない。こうした報道は厳しく検証されるべきだろう。

 これは輸出管理への無理解からくるもので、私は当時から「空騒ぎだ」と指摘してきた(関連記事:韓国の半導体産業、世界の供給網への影響も“空騒ぎ”)。 現に韓国とのまともな取引に支障は出ていない。その結果、韓国の半導体輸出量を見ても、ほとんど影響を与えていない(以下の図を参照)。「韓国に制裁をすべきだ」との思いの人々にとって不満かもしれないが、それが「輸出管理」であり、「輸出規制」ではないゆえんだ。わざわざ「輸出規制」と呼んでいる報道は意図的に事実をゆがめるものだ。

(出所:Global Trade Atlasのデータを基に筆者作成)
(出所:Global Trade Atlasのデータを基に筆者作成)
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 日本による輸出管理の厳格化を受けて、韓国は脱日本依存を掲げて、半導体生産に不可欠な3品目について国産化を急いだ。例えば、これまで日本企業からは高品質のフッ化水素を安定的に供給されていた。こうした高純度品の国産化は難しいので、多少の歩留まりの低下を覚悟して、低純度品でも何とかしのげる生産工程では一部を国産品に切り替えた。さらに日本企業に対しては可能ならば日本以外の工場から供給するよう要請もしている。その結果、日本企業による韓国向けフッ化水素の輸出は減少している。

 これらはサムスン電子など韓国企業が経済合理性を犠牲にしてでも、リスク分散を図った結果だ。ただこれをもって「日本の措置は日本企業にしわ寄せがいっただけだ」と評するのは当たらない。問題の一端は、日本企業自らのずさんな管理にもある。引き金になったのは事実だが、韓国はこれまでも脱日本依存を掲げて政策的に国産化を進めようとしてきた。それを加速したかもしれないが、時間の問題ともいえる。大事なことは技術流出を阻止して、高品質なものは日本企業に依存せざるを得ない状況をいかに維持するかだ。

 米中対立を背景に、日本も脱中国依存を掲げてサプライチェーンの国内化を進めている。これまで一体化の方向で進展してきた東アジアのサプライチェーンも既に大きく逆方向に回り始めている。日本企業もこれまで通りのビジネスを前提にできない経営環境なのだ。

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