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台湾の半導体大手、台湾積体電路製造(TSMC)は米国に半導体工場を建設する(写真:ロイター/アフロ)

 米中技術覇権の主戦場である半導体を巡る米中の綱引きが激化している。中国を半導体の供給網(サプライチェーン)から分離する米国の戦略は確実に進展している。拙稿「新型肺炎から垣間見えた、対中・半導体ビジネスの危うさ」で指摘した「部分的分離」戦略は決定的だ。

 5月15日、世界第1位の半導体ファウンドリーである、台湾の台湾積体電路製造(TSMC)が米国のアリゾナに最先端の半導体工場を建設する計画を発表した。米国の連邦・州政府からの支援を受けて総額約120億ドルを投じ、2021年から建設を始める計画だ。

 TSMCを巡って米中が工場誘致に激しい綱引きを演じていたのは周知の事実だ。米中がそれぞれ、自国の半導体供給網(サプライチェーン)にTSMCを取り込もうと争奪戦を繰り広げた。TSMCの半導体工場は台湾に集中しているが、中国政府の要請で、南京に先端半導体の工場を建設しており、2018年から稼働している。一方、米国に有する工場は世代が古い工場であった。

 この報道に関していくつかの誤解を招きかねない点もある。

 米国に建設する半導体工場は“最先端”ということになっている。だが、現時点では微細加工の線幅5ナノというのは確かに最先端ではあるが、TSMCは22年に台湾で3ナノの量産を始める予定だ。さらに2ナノも開発段階にあり、24年に生産開始を計画している。つまり、その時点では5ナノも最先端ではなくなっている。まだまだ米国と中国の取引、駆け引きは続きそうだ。

 軍事用途の半導体生産だとの指摘もあるが、これも疑問だ。一般的に半導体は軍事にも使われるので、その点ではもちろん「軍事用途」ともいえる。しかし、本件の誘致問題に米国の国防総省による特段の関与はほとんど見られないことから、この工場が特に軍事用途だというわけではないのだろう。

 また米国が半導体の自給自足を目指しているとの報道もある。確かに米国の半導体大手のブロードコムやクアルコムはいずれもファブレス企業で量産工場を持っているわけではない。インテルの生産だけでは心もとない。半導体生産の受託製造(ファウンドリー)の最大手TSMCの量産工場を誘致することは生産面で大きな意味を持つ。

 ただし米国だけでの自給自足は無理だ。半導体のサプライチェーンを見ると、日本の部材メーカーや日米欧の製造装置メーカーからの供給も含めたエコシステムとして成り立っている。中国との関係では、日米欧でサプライチェーンを押さえておくことに意味があるのだ。