医療物資不足に備えたリスク軽減策を

 特に、感染症と戦ううえでの必需品であるマスクやアルコール消毒液、防護服、人工呼吸器、人工肺などの医療物資の不足は、医療崩壊に直結しかねない。

 防護服不足は院内感染につながるだけに深刻だ。今となっては2月上旬に東京都が中国に33万着の防護服を寄贈したことに医療現場から恨み節も聞こえてくる。衣服として加工する縫製の工程は、加工賃の安い中国や東南アジアに生産委託し、製品は輸入に依存している。その結果、国内には生産拠点がなく、縫製の人員も技術も風前のともしびだ。

 消毒液については、問題は消毒液の生産能力だけではない。消毒液を増産してもプラスチックの容器が不足して供給できない。その原因は容器の重要部品であるが、手間がかかるポンプ、ガンスプレーの調達を中国など海外に頼っていることにある。「ボトルがボトルネックになっている」という笑えないジョークまでささやかれている。

 政府も産業界に協力要請をして、異業種も含めて総力戦で増産に取り組んでいる。

 今回の緊急経済対策で生産拠点の国内回帰策として2200億円の補助金が用意されている。補助率について、一般の製造業は大企業が2分の1、中小企業が3分の2であるところ、医薬品、医療機器は大企業が3分の2、中小企業が4分の3と、特段に優遇されている。是が非でも、すぐに民間企業にこれらの医療物資の製造に動いてもらうことを期待しているのだろう。

 もちろん、直面している供給不足解消のためには、国内での増産は必要なことだ。しかし、これはあくまでも緊急時対応である。人工呼吸器などはいずれも、平常時の市場はそれほど大きくないニッチ・マーケットである。しかも日本で作ると割高になるので、企業は在庫を抱えるリスクを心配して二の足を踏む。増産体制は企業にとって持続可能ではないのだ。国が増産分を買い取って備蓄すると表明しているが、これも継続的に行えるものではなく、限界がある。

 2003年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)や2009年に流行した新型インフルエンザの際も増産されたが、その後この“感染症特需”は長続きせず、生産は持続できなかった。今後も残念ながら何年かに一度、深刻な感染症流行が繰り返されることは不可避だろう。そしてその都度、間欠泉のように湧く“感染症特需”に増産狂騒曲を繰り返すのだろうか。

 こうした教訓を踏まえれば、今後、新型コロナが落ち着いた段階で、東南アジアなどからの供給の多角化と、備蓄の大幅強化などリスク軽減策の最適な組み合わせを、医療物資ごとに作るのが「本来のあるべき解」だろう。