米中の貿易交渉が「第1段階の合意」に達した。だがそれは、双方が譲れない線で妥協した「ミニ・ディール」にすぎない。米中はそれぞれ、どのような思惑で交渉に挑んでいたのか。通商の専門家、細川昌彦氏が深読みする。


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(写真:ロイター/アフロ)
(写真:ロイター/アフロ)

 米中の貿易交渉はようやく「第1段階の合意」にこぎ着けた。一言で言えば、スモール・ディールにも及ばない “ミニ・ディール”だ。その土壇場での駆け引きの深層を追ってみよう(参照:日本も巻き込まれる、米中関税合戦の深部にある技術覇権争い)。そこには焦るトランプ大統領の足元を見る中国と、それを取り繕って成果を誇示しようとするトランプ大統領の姿が浮かび上がる。

「農産物の大量購入」カードで中国はトランプ氏の焦りを誘う

 トランプ大統領は来年の大統領選に向けて、とりわけ激戦区の中西部の農業票へのアピールのために、農産物の大量購入を中国に受け入れさせるという成果をつくりたいと焦っていた。国内の弾劾訴追からも目をそらしたいという思いもあっただろう。

 トランプ大統領の焦りは、彼のツイッターでの発言を読めば手に取るようにわかる。「中国は合意したがっている」とツイートしたのは、逆に自分が合意したいからだ。去る6月にも「習近平(シー・ジンピン)主席は私に会いたがっている」と書いたときは、自分が首脳会談をしたかったのだ。

 中国はそうしたトランプ大統領の足元を見る「じらし戦術」を心得ており、今回もそうだった。

 中国は「農産物の大量購入」というカードをできるだけ高く売ろうとしている。購入額の目標は、最後まで明らかにしない。しびれを切らしたトランプ大統領は自ら「500億ドルに達すると思う」と誇らしげにアピールしている姿は、中国の思惑通りだ。トランプ大統領は総額の大きさにしか関心がなく、単価は眼中にない。それが、中国に買いたたかれる隙をつくっている。

 中国にとって農産物の購入は自国の需要に応えるためにも、いずれにせよ必要なことだ。これを有利な条件で買い付けることができれば御の字である。年が明けると、競争相手のブラジル産の大豆も出荷が始まり、ますます交渉ポジションが強くなる。農産物を巡る交渉は、明らかに中国ペースで交渉が進んでいる。

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