「強弁の解釈」は言い逃れに過ぎない

 WTOルールと整合性をとるためには、あくまでも撤廃の期限を明示することが必要とされている。この抜け道が許されるなら、今後この手法が他国でも横行するだろう。先日の国会でも同様の指摘をされて、苦しい強弁に終始していたようだ。

 フィリピンなどいくつかの国が締結した自由貿易協定(FTA)でも撤廃期限を明示していない例があるとの答弁もあったが、いくつかの国にはルールを厳守していない協定も中にはあるだろう。だが、ルール重視、WTO重視の姿勢を世界に示し、自由貿易を先導すべき日本にとって、こうした事例が日米貿易の中核を占める自動車の扱いの参考例になるとでも思っているのだろうか。

 既に、カナダやオーストラリアなどのTPP参加国からも、日米貿易協定における日本政府の対応について問い合わせが来ているようだ。国内的には強弁して乗り切れたとしても、他国からは冷ややかな目で見られていることを忘れてはならない。

 なお、WTOの専門家の中には、「WTO違反とまでは言えないが、問題ではある」との指摘もある。確かにWTOの規定は一般的に曖昧で、解釈で強弁できる余地もないわけではない。しかしここでの本質は厳密な法律論ではない。これをあえてWTO違反だと訴えてくる国など想定できないからだ。

 しかし、仮に厳密な法律論としてクロとまでは言えなくても、クロに近いグレーには違いない。それが通商政策として問題なのだ。深刻なのは日本が自らルールの抜け道の前例を作って、結果的にWTOの規定を空文化してしまうことだ。そして、今後の他国との交渉で日本が相手国に高い関税撤廃率を要求しても、これを前例にした主張をされて、今後大きな実害となって自らに跳ね返ってきかねない。

 たった2.5%というわずかな関税だから、あっても実害が少ないというのが自動車業界の判断はそのとおりだ。25%という制裁関税を脅しとして振りかざすトランプ大統領が何をするか分からないので、腫れ物に触るような交渉になるのも致し方ない面もある。しかし、通商外交は目先の実害だけで判断してはならない。日本が寄って立つべき根幹の原理原則を失うことによって生じる、今後の実害の大きさにも目を向けるべきだ。

米国流「議会の圧力」のススメ

 協定は既に署名されており、現実には今から修正するわけにもいかないだろう。では今後どうすべきか。

 来年、日米交渉は第2段階の交渉が予定されている。この交渉で関税撤廃の期限を明示して、WTOルールとの整合性をとるべきだ。期限は10年でも20年でもよい。最低限、期限が明示されていることがルールを遵守するうえで大事なのだ。なかでも自動車部品についてはTPP交渉時には約8割が即時撤廃で米国の譲歩を得ていたにもかかわらず、今回の協定ではほとんど取れていないことも忘れてはならない。

 このままいくと、米国が今後、第2段階においても自動車分野の交渉を本気ですることは期待できないだろう。それだけに、日本の国会はいい意味での「交渉への圧力」となるべきだ。

 私自身米国との交渉の場でたびたび経験したことがある。米国は交渉相手国に対して、「米国議会の圧力」をしばしば口にして交渉を有利に展開しようとする。今回の日米貿易協定もトランプ大統領の大統領選に間に合わせるべく、手続き上、米国議会の承認が不要な内容にすることがトランプ政権の最重要課題になっていた。そして日本政府もそれに協力した。

 日本も国益にかなう「議会の圧力」があってもよいのではないだろうか。

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