「ルール重視」とも言えなくなった?

 安倍総理がこれまで重視していた「ルールに基づく貿易」の表現が、今回の共同声明にないことも見逃してはならない。さすがに本協定は「ルールに基づく」と言うのもはばかられるので、これも基本理念から消されているのだろうか。

 本協定において米国の自動車・自動車部品が関税撤廃の対象に含まれない、あるいは含まれてもその時期が明示されていないことは、世界貿易機関(WTO)のルール違反ないしはWTOルールの抜け穴をつくっていることになるのではないか、と前稿でも指摘した(関連記事:日米貿易協定で日本がWTOルールの“抜け穴″つくる?)。その後、署名され公表された協定文を見ると、ますますその懸念を強くする。

 日本政府は、「これからの交渉により関税撤廃」と明文化したと説明していた。しかし、蓋を開けてみると、以下のような文言になっている。

 Customs duties on automobile and parts will be subject to further negotiations with respect to the elimination of customs duties(自動車と自動車部品の関税は、関税撤廃に関する更なる交渉の対象となる)

 つまり、これは自動車・自動車部品の関税撤廃は「交渉次第である」と言っているにすぎず、これでどうして米国が関税撤廃を約束したと言えるのだろうか。

 このような文言になっているのに、関税撤廃率が90%前後だと計算するのはさすがに国際的には通用しない。明らかに「捕らぬタヌキの皮算用」だ。実際、米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表も自動車・自動車部品は協定に含まれていないと対外的に説明している。

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