NAFTAも「自由貿易」がなくなった
明らかに本協定は、自由貿易を目指すものとして合意されていない。むしろこれまで掲げていた自由貿易の旗を降ろしてしまった。
TPPや日欧EPAは、まさに日本が自由貿易を主導した輝かしい成果であった。ところが日米貿易協定ではこの日本の通商外交の根幹の哲学が吹っ飛んでしまっている。到底、TPPや日欧EPAとは本質的に同列に語れない。そのことに気づかず、こうした日米貿易協定を含めて「自由貿易圏」と言うことはやめた方がよい。
トランプ大統領は、これまでも「自由貿易」をないがしろにしてきた。カナダ、メキシコと見直し交渉をした北米自由貿易協定(NAFTA)もそうだった。昨年合意された新協定の名称からは「自由貿易」の表現は削除され、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)となっている。見直し協定では自動車の輸出台数の数量規制など管理貿易的手法を導入してしまったのだから仕方ないだろう。
かつては自由かつ公平な貿易という国際的なコンセンサスがあったが、トランプ大統領の出現で「相互的」が主張された。これはかつて1980年代にもあった貿易不均衡の是正という“結果主義”を象徴する用語で、危険な言葉であることはかねて指摘してきたところだ(関連記事:トランプ氏が発した「互恵的」の真意)。
日本政府もトランプ大統領との妥協の産物で、日米間の協議の名称を「free、fair and reciprocal」の頭文字を取ってFFR協議とした時期もあった。そして今回の日米共同声明では、とうとう「自由貿易」という言葉までなくなってしまった。米国はともかく、日本までが日本の寄って立つべき原理原則である「自由貿易」の旗へのこだわりを捨ててしまった重大さに、メディアは目を向けるべきではないだろうか。
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