(写真:AP/アフロ)
(写真:AP/アフロ)

 安倍晋三首相は次のように言って日米貿易協定の成果に胸を張る

 「(米国抜きの)環太平洋経済連携協定(TPP)、日欧経済連携協定(EPA)を合わせれば、世界のGDP(国内総生産)の6割を占める新しい自由貿易圏ができた。その中心にいるのは日本になるのだと思う」

 果たしてそうだろうか?

「自由貿易」の旗を降ろしてしまった、日米貿易協定

 本協定の最終合意を確認した、9月26日の日米共同声明を見てみよう。そこには報道されていない、この協定の本質的な問題が潜んでいる。日米双方が促進する貿易は「互恵的で公正(fair)かつ相互的な(reciprocal)貿易」とされている。共同声明のどこにも、安倍首相が胸を張る「自由貿易圏」と言えるための「自由(free)貿易」の文字がない。自由貿易はどこに行ったのだろうか。

 1年前の日米共同声明と比較すると、「自由(free)貿易」が今回の交渉過程でどこかへ行ってしまったことが推察できる。

 昨年9月26日、日米首脳会談の共同声明で日米貿易協定の交渉開始が合意された。そこではトランプ大統領は「相互的な(reciprocal)貿易が重要」とし、安倍総理は「自由(free)で公正な(fair)、ルールに基づく(rules-based)貿易が重要」と記されている。

 つまり、トランプ大統領側と安倍首相側の主張を両論併記する形になっていた。別の言い方をすれば、両者の間では目指すべき基本的方向について交渉開始時から大きな食い違いがあり、合意できなかったのだ。

 1年たって交渉の結果を見ると、「自由」と「ルールに基づく」がなくなり、「公正」と「相互的」だけが残った。米国に押し切られた決着となったのだ。果たしてそのことに「自由貿易」を掲げる安倍総理自身が気づいているのだろうか。

 これは単なる言葉の綱引きではない。協定の本質、目指している方向を表す肝になる言葉である。交渉では、こうした言葉の一つひとつが重要で、それが内容(サブスタンス)に大きく影響するのだ。

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