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日米は明らかに「同床異夢」

 自動車・自動車部品は米国への輸出額の多くを占めている。これらを除外すると関税の撤廃率は貿易額の60%台にとどまることになり、世界貿易機関(WTO)のルールで目安とされる90%程度に遠く及ばない。

 これまで日本は、米国が離脱したTPPで主導的な役割を果たし、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)も発効にこぎ着けた。国際貿易機関(WTO)ルールの重視をうたい、インドや中国にも高い水準での自由化を呼びかけてきた。だが、米国との協定が「二重基準」とみなされれば、今後は他国に高い水準の関税撤廃率を強く要求できなくなる。

 米国の自動車や自動車部品の関税については「更なる交渉による撤廃」が明記された。これは「WTO違反ではない」と説明するために大枠合意後、日本側が書き込む努力をしたものだ。そしてこれらも含めて、今回の合意の関税撤廃率を計算して、米側で92%、日本側で84%と発表して胸を張る。

 米国は撤廃時期も書いていないし、米国も交渉を合意しただけで譲歩したわけではないとして、米国議会の承認も必要ないと判断したようだ。米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表も記者会見で、「米国の自動車関税の撤廃はこの協定に含まれていない」とコメントしている。明らかにこれは同床異夢だ。

 もちろん日本の交渉者の努力は評価する。だが、この一文の挿入によってWTO違反の“クロ”を多少なりとも“グレー”にしようという知恵だろうが、本質はそこではない。これで良いならばWTOルールにとって「抜け道」となり、他国にも同じやり方がまん延しかねない。その結果、日本がWTOルールを空文化する先鞭(せんべん)をつけることになってしまう。

 米国と中国はWTOのルールを無視して、制裁・報復関税の応酬を続けている。その結果、戦後築き上げてきた国際秩序が崩壊の危機にさらされている。そうした状況だからこそ、日本はWTOやルールの重要性を訴え、それを主導する必要がある。そもそも米中のような巨大な国内市場を持たない日本のような国は、ルールを重視しなければ生き延びることはできない。その生命線を自ら崩してはならない。

今後の展開を読む

 日米は2020年1月にも協定を発効させて、来春以降に「第2ラウンドの交渉」に入るとしている。しかしこれも額面通り受け取ってはならない。これは米国議会が「包括的な協定にすべし」としていることから、トランプ政権としては、今は「包括的な協定にするべく、さらに交渉する」と言わざるを得ないからだ。来年になって大統領選が佳境に入って、すぐに大統領選にプラスになるような果実を得られない交渉にトランプ大統領が果たして興味を示すだろうか疑問だ。

 仮に第2ラウンドがあったとしても、米側は物品貿易の交渉は終わったとして、薬価制度の見直しやサービス分野の市場開放に焦点を移すだろう。百歩譲って、継続協議となった米国の自動車関税の撤廃を議論できたとしても、日本の農産物の関税引き下げという交渉のレバレッジを失ってしまって、果たして米国から譲歩を得られるだろうか。

 残念ながら淡い期待はしない方がよさそうだ。