産業、供給網への影響は「審査の運用次第」なのか?
今回の措置の産業、供給網に与える影響については、補足解説3:誤解だらけの「韓国に対する輸出規制発動」 「WTO違反」「世界の供給網に激震」はないでも指摘しているように、他のアジアの国々においてこうした懸念が生じていないことを見れば明らかだ。
この点について、ある論者はメディアでしきりに「審査の運用次第だ」と繰り返している。はたして審査の現場を理解しているのだろうか。おそらく「役所の裁量で審査はどうとでもなる」「恣意的運用も可能だ」とでも思っているのだろう。
はっきり言おう。どこかの国と一緒にしないでほしい。
100人近くいる審査官はプロフェッショナルな仕事をしている。工作機械、炭素繊維など分野ごとの専門家が用途、顧客に懸念がないかを日々慎重にチェックしている。上からの指示で政治的に審査を遅らせることなどありえない。そのような誤解は彼らの名誉にも関わることで、失礼極まりない。審査に手間取ることがあるとしたら、それは輸入者からの誓約書や証明するものが不備であったり、輸出者の対応に問題があったりした場合だ。
単なる評論ではなく、もっと現場の実態を見てから論評してほしいものだ。
サムスンは調達に奔走している?
先月、韓国サムスン電子の御曹司である副会長が来日した。日本の評論家は「日本企業のサプライヤーを訪問して調達に奔走した」と自信を持って解説する。
はたしてそうだろうか。
実はわざわざ空港から降り立つところをテレビカメラに映させて、報道されることを狙っていたのだ。これは韓国大統領府からの要請によるものだとのうわささえある。本当に調達に奔走するならば、わざわざテレビに映させたりはしない。そこには政治的な意図も見え隠れする。
参考になるのが中国のファーウェイだ。米国による制裁を察知して2019年2月、日本のサプライヤー企業数十社に本社の調達責任者が水面下で奔走して回った。本気の調達とはそういうもので、わざわざメディアに見せるものではない。
そのサムスンも日本の報道に影響されて、90日分の在庫を韓国国内で持つように日本の全サプライヤーに強く要請しているそうだ。
これはサムスン自身、全く今回の措置を理解していない結果だ。90日とは標準審査期間として報道されている日数で、これが実態の審査日数とはおよそかけ離れたものであることは、補足解説2:誤解だらけの「韓国に対する輸出規制発動」 個別許可スタート、本当に韓国企業の打撃になるのか?でも指摘している通りだ。いずれすぐにこうした90日の在庫が全く無意味であることがわかるだろう。それは企業にとっての不必要なコストになってしまう。
日本のメディアによる誤解を招く報道が、こうした無駄な企業行動となって影響している。
支離滅裂な文政権も対抗措置
こうした問題以上に懸念すべきは、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権の対応だ。
明らかに反日をあおって国民に団結を呼びかけ、自らの求心力を高めようと躍起になっている。徹底した反日で国家的危機をアピールして政権運営する方針を固めているのだ。こうした文政権のうちは日韓の関係改善は望めないだろう。8月2日、文大統領は「国民向けの談話」で日本人には信じがたい激烈な言葉を発している。しかし、あくまでこれは「国民向け」なのだ。
対抗策として、韓国のホワイト国のリストから日本を除外するというのはあまりに感情的で、稚拙な対応に驚かされる。日本はきちっと輸出管理上の理由を示しているにもかかわらず、韓国は何らそれを示すことなく単なる報復だ、と言うから開いた口が塞がらない。日本の措置を世界貿易機関(WTO)違反と主張するならば、韓国は自らの足を銃で撃っているようなものだ。
こうした支離滅裂で問題の本質に向き合わないのが文政権の特色である。これは先般のレーダー照射問題と共通する。
国際的なロビーイングで後れを取っている日本
ただ、韓国は国際的な世論工作だけはなりふり構わずやっているので、そこには警戒が必要だ。
WTO一般理事会や東アジア地域包括的経済連携(RCEP)閣僚会合での執拗な日本批判など、場違いであることなどお構いなしだ。他の国々が辟易(へきえき)していても、臆面もなくやれるのが韓国だ。
特に米国への働きかけは猛烈だ。米国への仲介依頼のために国務省に猛攻勢をかけて、ポンペオ国務長官も仲介のフリだけでもせざるを得なくなった。さらに米国の産業界にも強烈なロビーイングをして、世界の供給網への懸念を説いて回り、7月23日、米国の産業団体から韓国の意向を反映した意見書まで出させるのに成功している。
海外メディアへの働きかけもそうだ。日本のメディアの報道もうまく利用されて、世界の産業への懸念を喧伝(けんでん)している。
日本も筋論では100%勝てるものの、油断大敵である。こうした国際世論への対策は韓国相手のときには、特にがむしゃらにやらなければならない。
外交当局も品よくやっている場合ではない。「あれは経産省の問題」との意識がどこかにあると、足をすくわれる。「○○に説明してきました」といったアリバイづくりのような通り一遍のロビーイングで済ましていてはいけない。
■追記(8月7日)
一般財団法人の安全保障貿易情報センター(CISTEC)は8月5日、「韓国向け輸出管理の運用見直しに関連する法制度運用についての誤解―混乱回避のために正確な理解を!」と題した資料を公表した。「極端な誤解と思い込みが混乱を招いている」として、誤解されているポイントを分かりやすく解説している。私の主張とも合致するので、紹介しておきたい。特に以下の図は、前稿「なぜ韓国の『ホワイト国除外』で“空騒ぎ”するのか」に合致するものだ。
有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。
※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。
※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。
この記事はシリーズ「細川昌彦の「深層・世界のパワーゲーム」」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
Powered by リゾーム?