韓国の文在寅大統領は、反日感情をあおっている(写真:YONHAP NEWS/アフロ)
いつまで続く、「無知からくる誤解の垂れ流し」
8月2日、日本は韓国をホワイト国から除外する閣議決定をした。「対韓輸出規制の発動」といった勇ましい報道が始まってからほぼ1カ月。これまで4回にわたって今回の措置を巡る数々の重大な誤解を指摘してきた。メディアもここに来てやっと「韓国向け輸出管理の厳格化」「韓国への輸出優遇からの除外」と表現を改めてきた。なんと長い時間を要したことか。その間、国内だけでなく、韓国や国際社会に無用の誤解を与えてきていることを忘れてはならない。
だが、依然として、大きな誤解がメディアで堂々と垂れ流され続けている。結論を言えば、韓国のホワイト国からの除外で影響は極めて限定的だ。それにもかかわらず、相変わらず不安をあおって“空騒ぎ”している。目に余るものをいくつか挙げてみよう。
個別許可が1000品目以上に増える?
まず、「今回の輸出優遇からの除外で、個別許可の品目は第1弾の3品目から1000品目以上に増える」と、もっともらしく語られている点だ。これは明らかに輸出管理制度への無知からくるものである。
確かに、ホワイト国への輸出に認められている包括許可(これを「ホワイト包括」という)は、韓国に関してはなくなった。だからといって、全ての品目が個別許可の対象になるわけではない。別の包括許可制度があって、ほとんどそれでカバーされてしまうのだ。その結果、まともな企業にとって輸出の実態にはほとんど影響がないと言ってもいい。
これは「特別一般包括制度」といって、輸出者が輸出管理の社内規定を整え、経産省の立ち入り検査を受け入れることを前提に取得できるものだ。通常の取引をしているまともな企業の多くは、これを既に取得している。
「個別許可の品目が1000品目以上になって影響は大きい」という論者は、こうした実態を知らないようだ。それを恥ずかしげもなくメディアでさらけ出している論者のいかに多いことか。
見直し後でも他のアジア諸国よりも優遇されている
しかもより詳細に見ると、韓国は国際レジームのメンバー国なので、韓国向けの特別一般包括は他のアジア諸国に対する特別一般包括よりも多くの品目がカバーされている。従って今回の見直し後でも依然として、韓国は他のアジア諸国よりも優遇されている。
今回、政府は「ホワイト国」という呼称をやめて、4つのカテゴリーのグループに分けて名称変更した。他のアジア諸国がグループCであるのに対して、韓国はグループBとなった。韓国が「グループC」ではなく「グループB」となり、他のアジア諸国より優遇されているのは、そうした理由からだ。
このことを政府はもっとわかりやすく説明すべきだろう。
ほぼ全ての品目で個別許可の可能性がある?
また「韓国向けのほぼ全ての品目で経済産業省が個別審査をできるようになる」との記事もある。おそらく、補足解説3:誤解だらけの「韓国に対する輸出規制発動」 「WTO違反」「世界の供給網に激震」はないで指摘したように、「キャッチオール規制」が適用されることを指しているのだろう。これもこの制度に対する無知からくる誤解である。
この制度はリスト規制品でなくても兵器の開発、製造などに使われる懸念があるようなケースがあれば、経産省は個別許可を輸出者に求めることができるというものだ。これは国際レジーム参加各国が標準装備している制度で、もちろん韓国も例外ではない。
確かにこのキャッチオール規制はリスト規制品でなくても対象になるので、理論的、観念的には「ほぼ全ての品目で個別許可の可能性がある」というのも嘘ではない。
しかし問題は、そういうケースが実際にどれだけあるかだ。これは安全保障に関わるので公表されていないが、この制度は「万が一のための制度」ということを忘れてはならない。過去、北朝鮮向けやイラン向け、中国向けなどで発動されたことがあるようだが、そうした安全保障上の懸念がある例外的なケースに限られる。通常のビジネスの問題ない取引では発動されることはない。国際的義務として念のために持っているこの制度が、普通の取引に適用されるはずがないのだ。
従って「ほぼ全ての品目で個別許可を求められる可能性がある」とだけ聞くと、一般人は明らかに誤解する。そうした誤解を招いて不安をあおることを、あえて狙っているのだろうか。
産業、供給網への影響は「審査の運用次第」なのか?
今回の措置の産業、供給網に与える影響については、補足解説3:誤解だらけの「韓国に対する輸出規制発動」 「WTO違反」「世界の供給網に激震」はないでも指摘しているように、他のアジアの国々においてこうした懸念が生じていないことを見れば明らかだ。
この点について、ある論者はメディアでしきりに「審査の運用次第だ」と繰り返している。はたして審査の現場を理解しているのだろうか。おそらく「役所の裁量で審査はどうとでもなる」「恣意的運用も可能だ」とでも思っているのだろう。
はっきり言おう。どこかの国と一緒にしないでほしい。
100人近くいる審査官はプロフェッショナルな仕事をしている。工作機械、炭素繊維など分野ごとの専門家が用途、顧客に懸念がないかを日々慎重にチェックしている。上からの指示で政治的に審査を遅らせることなどありえない。そのような誤解は彼らの名誉にも関わることで、失礼極まりない。審査に手間取ることがあるとしたら、それは輸入者からの誓約書や証明するものが不備であったり、輸出者の対応に問題があったりした場合だ。
単なる評論ではなく、もっと現場の実態を見てから論評してほしいものだ。
サムスンは調達に奔走している?
先月、韓国サムスン電子の御曹司である副会長が来日した。日本の評論家は「日本企業のサプライヤーを訪問して調達に奔走した」と自信を持って解説する。
はたしてそうだろうか。
実はわざわざ空港から降り立つところをテレビカメラに映させて、報道されることを狙っていたのだ。これは韓国大統領府からの要請によるものだとのうわささえある。本当に調達に奔走するならば、わざわざテレビに映させたりはしない。そこには政治的な意図も見え隠れする。
参考になるのが中国のファーウェイだ。米国による制裁を察知して2019年2月、日本のサプライヤー企業数十社に本社の調達責任者が水面下で奔走して回った。本気の調達とはそういうもので、わざわざメディアに見せるものではない。
そのサムスンも日本の報道に影響されて、90日分の在庫を韓国国内で持つように日本の全サプライヤーに強く要請しているそうだ。
これはサムスン自身、全く今回の措置を理解していない結果だ。90日とは標準審査期間として報道されている日数で、これが実態の審査日数とはおよそかけ離れたものであることは、補足解説2:誤解だらけの「韓国に対する輸出規制発動」 個別許可スタート、本当に韓国企業の打撃になるのか?でも指摘している通りだ。いずれすぐにこうした90日の在庫が全く無意味であることがわかるだろう。それは企業にとっての不必要なコストになってしまう。
日本のメディアによる誤解を招く報道が、こうした無駄な企業行動となって影響している。
支離滅裂な文政権も対抗措置
こうした問題以上に懸念すべきは、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権の対応だ。
明らかに反日をあおって国民に団結を呼びかけ、自らの求心力を高めようと躍起になっている。徹底した反日で国家的危機をアピールして政権運営する方針を固めているのだ。こうした文政権のうちは日韓の関係改善は望めないだろう。8月2日、文大統領は「国民向けの談話」で日本人には信じがたい激烈な言葉を発している。しかし、あくまでこれは「国民向け」なのだ。
対抗策として、韓国のホワイト国のリストから日本を除外するというのはあまりに感情的で、稚拙な対応に驚かされる。日本はきちっと輸出管理上の理由を示しているにもかかわらず、韓国は何らそれを示すことなく単なる報復だ、と言うから開いた口が塞がらない。日本の措置を世界貿易機関(WTO)違反と主張するならば、韓国は自らの足を銃で撃っているようなものだ。
こうした支離滅裂で問題の本質に向き合わないのが文政権の特色である。これは先般のレーダー照射問題と共通する。
国際的なロビーイングで後れを取っている日本
ただ、韓国は国際的な世論工作だけはなりふり構わずやっているので、そこには警戒が必要だ。
WTO一般理事会や東アジア地域包括的経済連携(RCEP)閣僚会合での執拗な日本批判など、場違いであることなどお構いなしだ。他の国々が辟易(へきえき)していても、臆面もなくやれるのが韓国だ。
特に米国への働きかけは猛烈だ。米国への仲介依頼のために国務省に猛攻勢をかけて、ポンペオ国務長官も仲介のフリだけでもせざるを得なくなった。さらに米国の産業界にも強烈なロビーイングをして、世界の供給網への懸念を説いて回り、7月23日、米国の産業団体から韓国の意向を反映した意見書まで出させるのに成功している。
海外メディアへの働きかけもそうだ。日本のメディアの報道もうまく利用されて、世界の産業への懸念を喧伝(けんでん)している。
日本も筋論では100%勝てるものの、油断大敵である。こうした国際世論への対策は韓国相手のときには、特にがむしゃらにやらなければならない。
外交当局も品よくやっている場合ではない。「あれは経産省の問題」との意識がどこかにあると、足をすくわれる。「○○に説明してきました」といったアリバイづくりのような通り一遍のロビーイングで済ましていてはいけない。
■追記(8月7日)
一般財団法人の安全保障貿易情報センター(CISTEC)は8月5日、「韓国向け輸出管理の運用見直しに関連する法制度運用についての誤解―混乱回避のために正確な理解を!」と題した資料を公表した。「極端な誤解と思い込みが混乱を招いている」として、誤解されているポイントを分かりやすく解説している。私の主張とも合致するので、紹介しておきたい。特に以下の図は、前稿「なぜ韓国の『ホワイト国除外』で“空騒ぎ”するのか」に合致するものだ。
出所:CISTEC(安全保障貿易情報センター)「韓国向け輸出管理の運用見直しに 関連する法制度運用についての誤解」
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