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「WTO違反」にはならない

 まず世界貿易機関(WTO)との関係である。

 韓国は、日本の措置はWTO違反であると主張すべく、7月24日にWTOの一般理事会で意見表明する予定だ。日本のメディアの中には識者のコメントとして「WTO協定違反も」との意見を掲載しているものもある。そして「安全保障を名目にした貿易ルールの恣意的な運用との批判もある」としている。

 果たしてそうだろうか。

 こうした論調の記事を見て、安全保障の輸出管理を少しでも理解する者は、驚いたはずだ。輸出管理を専門とする米国の弁護士に話を聞くと、記事の英訳を読んで「信じられない」と話していた。

 前述したように、安全保障の輸出管理は国際合意に基づいて、メンバー各国がそれを履行している。WTOの協定上、安全保障に関してはWTOの例外扱いになっている(GATT21条)。安全保障の輸出管理における国際的な枠組みを実施するための措置がWTO協定の例外になることは、国際的には「自明の理」なのだ。

 今回の日本の措置がWTO違反になるのならば、メンバー各国が実施している安全保障の輸出管理は全てWTO違反になってしまう。そして2004年以前に日本が実施していた韓国への輸出管理もWTO違反ということになってしまう。

 しかも今回の措置は新たな規制の導入でもなく、国際合意を適正に履行するための手続き・運用の見直しにすぎない。トランプ米大統領が安全保障を理由に身勝手な論理で中国に対する事実上の禁輸措置を繰り出しているのとは、本質的に話が違う。これを同列に議論すること自体、誤解に基づくものである。前出の米国弁護士があぜんとしたのも当然だ。

 WTOルールの専門家であっても、国際的な安全保障の輸出管理制度を理解していない学者が多い。韓国側の中には、こうした日本の記事を引き合いに出して、「日本の専門家もWTO違反の恐れありと指摘している」と主張しているから、メディアの責任は極めて重い。

政治目的での規制なのか?

 これは当初から、元徴用工の問題での韓国側の対応に対する「事実上の報復措置」と繰り返し報道されたことにも起因する。安倍総理も「国と国の約束が守られる信頼関係が損なわれた」と言い、世耕経済産業相のツイッターでも今回の措置の経緯説明の中で元徴用工問題に言及していることで、この点に焦点を当てて論じられている。前稿「補足解説2:誤解だらけの『韓国に対する輸出規制発動』~個別許可スタート、本当に韓国企業の打撃になるのか?」でこうした説明に問題があることを指摘したところである。

 輸出管理上の問題点として、緊密な意見交換ができない状況にあること、流出の懸念も持たれかねない管理のずさんさといった「不適切事案」が多数発生したことなどは、今回の措置を正当化するのに十分で、むしろもっと早くやっていてもよいぐらいだ。こうした輸出管理上の「措置の理由」について韓国は、ぐうの音も出ない。そこで韓国は「措置の背景」である元徴用工問題を取り上げて「政治目的のための措置」だと主張している。

 日本の中にも、輸出管理上の理由は「建前」で、元徴用工問題が「本音」だとコメントする論者もいる。メディアの中にも「政治利用だ」との批判を繰り返すものもある。

 しかしこれは全くの誤解だ。

 元徴用工の問題があろうとなかろうと、今回の措置は当然やらなければならないものだ。また、仮に元徴用工の問題が解決するようなことがあったとしても、韓国の輸出管理に対する信頼が回復しない限り、本措置が撤回されることは決してない。そうなって、輸出管理上の理由が「建前」でないことに初めて気づくのだろう。