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通商分野の“3点セット”に注目

 第1は、デジタル貿易のルール作りだ。

 国境を越えたデータのやり取りなど、デジタル貿易はこれからの経済で中心的役割を果たす。これに対する国際的なルールがない中、中国は国家主導でデータの国外持ち出しを規制してデータを囲い込もうとしている。米国はデータ流通の自由を主張し、欧州はプライバシー保護を重視して規制を始めている。こうした各国の思惑がバラバラな中で、多国間で国際ルールの枠組みを目指す「大阪トラック」の創設を打ち出そうとしている。

 世界貿易機関(WTO)は加盟国が164カ国と肥大化して、しかも意思決定に全会一致が必要だ。時代に応じた新たなルール作りは必要でも、もはや期待できないのだ。そこで次善の策として、「有志国によるルール作り」が模索されることになる。この分野では約80カ国の有志国で議論が進められようとしている。これをG20サミットで後押しし、議論を進展させようとする狙いだ。

 この一連の国際的な動きを主導しているのが日本だ。狙い撃ちを警戒する中国を説得しながらルール作りに巻き込まなければならない。規制に対するスタンスが水と油の米欧の間を取り持たなければならない。こうしたことをクリアして有志国の集まりを軌道に乗せる作業は、恐らく日本しかできない役割だろう。

 今年1月のスイス・ダボスでの国際会議で安倍総理がデータ流通の国際ルールを提唱したのも、G20サミットにつなげる伏線だった。こうした事前の下作業も日本の得意とするところだ。

 第2は、インフラ投資のルール作りだ。

 中国による新興国への融資に対しては、「借金漬け」による「債務の罠(わな)」であるといった批判がある。G20サミットで議論されるインフラ投資のルールは、こうした中国の動きをけん制するためのものだ。借入国のインフラを支援国が囲い込まない「開放性」や、借入国の「債務の持続可能性」に配慮するといった諸原則を、今回のG20サミットでも採択する見通しだ。

 これも今回のG20だけでなく、時間軸を持って見ることが大事だ。

 議論がスタートしたのは3年前の2016年。主要7カ国首脳会議(G7伊勢志摩サミット)にさかのぼる。ここで主催国・日本の仕掛けで「質の高いインフラ投資の原則」に合意した。同年のG20杭州サミットでは、主催国である中国もこうした声を無視できず、議論のきっかけを盛り込ませることに成功した。さらに2018年のAPEC閣僚会議でもルールの具体的ガイドラインが合意された。

 こうした一連の流れを受けて、今回のG20サミットでの議論につながっている。このルールが採択されれば、まさに3年越しの日本の仕掛けがやっと結実する。

 第3はWTO改革だ。

 95年に関税貿易一般協定(GATT)がWTOに改組されて25年弱になる。その間、2001年の中国の加盟などもあって、取り巻く環境は大きく変わった。紛争処理、ルール作りといったWTOの2大機能も制度疲労を起こして、深刻な機能不全に直面している。米中のような大国は今日のようにパワーゲームを繰り広げられるが、日本のような国はルール・ベースの国際秩序の存在が死活問題だ。その屋台骨が米中によって揺らいでいる中で、どう立て直しができるかがWTO改革の根幹である。

 WTO改革については、中国も含めて各国は「総論賛成、各論反対」という態度だ。いくら「WTO改革の必要性」に合意して宣言文に書いたところで、何の足しにもならない。いかに改革の各論を書き込めるかが勝負である。それが今後のWTOでの具体的な動きにつながってくる。

 そうした意味で、今回閣僚会合の声明で、紛争処理システムを機能させるための行動、産業補助金ルールを強化すること、透明性を高めるための通報制度のあり方などを、初めて具体的に盛り込めたことに注目すべきだろう。