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レアアースは中国の切り札になれるのか?

 こうして米国が対中の切り札ともいえる「ファーウェイ・カード」を切ってきたことに、中国はどう反撃するのか。

 「中国がレアアースで米国をけん制」との報道が飛び交っている。5月20日に習近平主席が江西省の磁石メーカーを視察訪問して、「重要な戦略資源だ」と強調したことに端を発して、対米輸出規制をほのめかした共産党機関紙の論評記事、国家発展改革委員会の声明発表と続いた。

 磁石メーカーの視察訪問に対米交渉の責任者である劉鶴副首相を帯同させたのは、米国をけん制するためのメッセージだろう。同時に、対米弱腰外交と批判する共産党内の保守強硬派へのアピールの面もあるようだ。逆に言えば、米国によるファーウェイに対する事実上の禁輸措置に対して、有効な対抗策を打てないことへの裏返しでもある。これ以外に対抗カードになりそうなものが見当たらないのだ。

 ただ一旦ここまでほのめかすと、習近平政権としても単なる国内向けのアピールにとどまらずに、実際にカードを切らざるを得なくなる可能性があることは懸念される。

レアアースを“十羽ひとからげ”に見る日本のメディア

 日本の報道を見ていると、レアアースを十羽ひとからげに捉えて、中国が世界の生産量の7割を占めることや、米国のレアアースの輸入の8割を中国に依存していることが強調されている。だが、これでは表面的な理解しかできない。

 レアアースは、環境規制の緩い中国での生産コストが安いのでシェアが高いだけで、中国が輸出規制すれば、価格が高騰し、他国の企業が代替供給できるため、レアアース規制は中国の強力な武器にはならないという主張もある。中国は世界の生産量は7割を占めていても、賦存(ふそん)量は世界の3~4割であることから、これは一面正しい。ただし、これもそう単純ではなく、レアアースの種類ごとに子細に見る必要がある。

 中国は相当調べ上げたうえで、もっと焦点を絞った対応を考えているようだ。現在の中国は2010年に日本に対して供給途絶した際と同じではない。中国もこの当時の経験から学んでいる。私は当時、この問題の対処に奔走していた経験から、もう一歩踏み込んで考えてみたい。

 まずレアアースは、少なくとも「軽希土類」と「重希土類」に分けて考えるべきだ。

 前者はセリウム、ランタンなどガラス研磨、触媒、光学レンズなどに使われるものだが、中国以外の国からの代替供給は可能だ。実際、2010年当時も他国からの代替供給が増えて、その結果、中国の制裁解除後、価格が暴落したという苦い経験を中国はしている。

 また供給途絶を受けた日本のメーカーはレアアースを極力使わない技術も開発し、状況は当時から劇的に変化している。現在の米国の対中依存度が8~9割だからといって、単純に壊滅的打撃を受けるというのは早計だ。2010年当時の日本企業と同様に、米国企業も代替供給、使用削減を大胆にするだろう。その結果、中国自身の首を絞めかねない、いわば“もろ刃の剣”なのだ。

 他方、重希土類はジスプロシウムなど磁石に使われ、強力な磁性や耐熱性を出すために磁石に添加する。EV(電気自動車)のモーターに使うだけでなく、ミサイルの精密誘導装置や戦闘機のレーダー、ソナー装置などにも使われ、安全保障上の大きな懸念材料だ。これらは中国以外の代替供給ソースは短期的には困難だ。地質上、中国南西部に偏在し、まさにそこに狙いを定めて習近平主席は訪問視察している。

 なお、同じく磁石に使われるネオジムは重希土類と軽希土類の中間に位置し、オーストラリアなどでも代替生産可能で、生産拡大の動きは既に出ている。