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自動車関税は抜けない刀の“空脅し”

 日米協議の最大のテーマは自動車だ。昨年9月の日米首脳会談の共同声明ではっきり書きこまれたのが、「米国の関心は、米国国内の自動車産業の生産と雇用の増加である」ことだ。そのために、自動車の高関税を脅しに、米国が日本を追い込みたいのが、対米輸出の「数量規制」である。

 この数量規制の問題の深刻さについては、拙稿「日米通商交渉の主戦場『自動車の数量規制』はなぜ“毒まんじゅう”か」で詳述したので、ここでは繰り返さない。

 日本の中には、トランプ大統領による25%の自動車関税の引き上げを回避することが最重要課題であるので、早期に妥結した方がよいと主張する向きもある。これはとんでもない見当違いだ。自動車関税の引き上げの脅しは「抜けない刀」で“空脅し”だからだ。

 仮に自動車関税を引き上げれば、経済への打撃が大きく、株価暴落の引き金を引きかねない。輸入車だけでなく、米国国産車の価格も上昇し、消費が冷え込むことが予想され、シンクタンクの試算では米国の雇用も150万人減るとの試算もある。大統領再選に向けてトランプ大統領が重視するのが株価である限り、採れない選択だ。ちなみに、米国議会も反対している。

「ビッグスリーよりも中西部」、かつての自動車交渉との根本的違い

 これに関連して、かつての自動車交渉との根本的違いも大事だ。

 かつては米国政府は米国の自動車メーカー・ビッグスリーの要求を背景にその利益のために交渉していた。そこで日本も米国政府だけでなく、裏でビッグスリーと接触することも交渉上必要不可欠であった。

 ところがトランプ政権の関心は、米国の自動車産業にあるのではない。むしろ米国内の工場閉鎖に傾くビッグスリーとは対立している。トランプ大統領の関心は大統領選挙のための中西部対策にある。

 従って日本としては、中西部への自動車メーカーの投資拡大で、生産と雇用の増加にいかに貢献できるかをアピールすることに解を求めることとなる。政府は民間の投資にコミットできないが、各社の投資計画をいかに繰り返しアピールし、トランプ大統領の頭に刷り込むかにかかっている。