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サービスを交渉対象とするかどうかは本質ではない

 サービス分野が交渉対象になるかどうかにメディアが注目している。対象が物品だけだと自由貿易協定(FTA)ではないが、対象を広げてサービスを含めるとFTAになるといった誤解がまん延しているからだ。いまだ一部メディアは物品貿易協定(TAG)交渉という大本営発表の名称に引きずられている。

 FTAという言葉を避けたい日本政府が使った言葉だが、米国はそんな言葉は使っていない。実態を見ればFTA交渉であることは明らかだからだ。

 日本政府は「これまで締結してきた、包括的なFTAではない」と説明したが、「FTAではない」とは一言も言っていない。「包括的でないFTA」も当然あるのだ。しかし、メディアは誤解したまま報道している。その結果、交渉対象にサービスが含まれるかどうかが最大の課題かのように報道しているのだ。

 以前にも指摘したが、物品の関税引き下げだけでもFTAであることは通商のルールでは明らかだ。逆にFTAでなければ、特定国に対して物品の関税を引き下げられないのだ(参照:日本に巣くう、強烈な「FTAアレルギー」)。

 日本政府はあえてメディアの誤解を放置して、少なくとも夏の参議院選挙まではFTAという言葉を使わない方針でいるようだ。こうした呼称で実態を糊塗しようとする対応を米国政府関係者も冷ややかに見ている。実態はFTAであることは明らかで、呼称は本質的な問題ではなく、日本の国内問題だ、との立場だ。

 いずれにしても日本のメディアも、「過ちては改むるにはばかることなかれ」だ。

突如浮上してきた「デジタル貿易」の裏事情

 今回の会談の結果、今後の交渉で自動車、農産物といった物品だけでなく、デジタル貿易を扱うこととなった。なぜ、突如、デジタル貿易が浮上したのだろうか。

 デジタル貿易とは電子商取引など国境を越えたデータの流通を意味する。米国側から「日米が(国際的に)進んでおり日米の考えに違いがない分野だ」として、交渉対象に含めるよう提案があったという。グーグルなど米巨大IT企業が海外展開しやすいよう、国境を越えたデータ移動の自由を確保したい。

 実は、これは日米の国内事情からくる「3つの要求」を満たす案として急浮上してきた。

 第1は、米国議会の要求を多少なりとも汲んでいる姿勢を示すことだ。物品だけではなく、広く産業界の要望を反映した交渉対象になっているという、象徴的な実例が一つでも欲しい。

 第2に、トランプ政権は大統領再選に向けて早期の成果が欲しい。そのためには交渉が長引きそうなものは避けて、合意し易い分野にしたい。幸い、デジタル貿易のルール作りは日本も主導して、既に日米欧が核となった国際的な議論が相当進展している。この果実を取り込めばよいのだ。日本は米欧の間を取り持つものの、日米での意見の隔たりは大きくない。

 第3に、日本政府としてはサービス分野の自由化は“無用のFTA論”を呼び起こしかねないので、できれば避けたい。デジタル貿易はルール作りであることで、その懸念は薄まる。

 こうして、「デジタル貿易」はこれらの要求を満たすものとして急浮上した。しかもデータの囲い込みをする中国に対して日米が協力して牽制をするといった戦略的な意味もある。

 私もかつて日米での貿易協定をするならば、TPP以降の国際状況も踏まえた「ルール」も含めて、単なるFTAにとどまらず、経済連携協定(EPA)を目指すべきと主張していたが、まさにその方向に一歩踏み出したようだ。