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追加関税は「抜けない刀」

 こうして、なかなかライトハイザー氏の思惑通りにカードを切ってこない中国に対して、米国側に焦りも生じてきている。

 米国は当初、経済減速で苦境に直面している中国側が大幅に譲歩すると見込んでいた。しかし、その後、市場が米中合意による追加関税の見送りを織り込むようになり、形勢は中国有利になっていく。追加関税は「抜けない刀」で、「脅し」としての効果がもはやなくなっているのだ。

 2020年の大統領選挙が近づけば近づくほど、トランプ大統領は支持層へのアピールと株価維持を意識せざるを得ない。これを見透かした中国側の「引き延ばし戦術」が功を奏しつつあるようだ。米国側が株価への悪影響を懸念して、表向き「交渉は進展している」と言って、順調な交渉をしきりに演出している姿がそれを物語っている。

議会をバックにしたライトハイザーvsトランプの綱引き

 

 こうした米中間の交渉については「米国」という主語で一括りにして見ていては真相が見えない。私が以前から指摘しているように、トランプ大統領と「トランプ大統領以外の米国」を分けて考えるべきだ。

 トランプ大統領以外とは、議会、情報機関、政権内の強硬派、シンクタンクなどの政策コミュニティーという“オール・アメリカ”を指している。議会をはじめとする対中警戒感は根深く、ワシントン全体の空気を覆っている。その対外発信の代表者が、昨年10月に中国に対する「新冷戦」の宣戦布告に当たる演説をしたペンス副大統領だ。

 トランプ大統領の関心は、2020年の大統領再選に向けての得点稼ぎである。中国と短期的なディール(取引)で成果を国内支持層にアピールしたい。例えば、中国の報復関税で大打撃を受けている大豆農家に対して、中国に大量購入させたとアピールして、不満を解消できればよい。首脳会談で見栄えのする成果、わかりやすい成果をとってくる方が大事で、知的財産権など構造問題は二の次だ。いわゆる「スモール・ディール」でよいのだ。

 2月末には交渉難航への焦りから、トランプ大統領は構造問題や実行を担保するための覚書にこだわるライトハイザー氏を批判して、思わず不満の本音が出てしまった。今秋には実質的に大統領選挙モードに入ることを考えれば、トランプ大統領としては早く果実がほしいところだ。中国としてはその焦りを誘ってじっくりしのげばよい。