
中国の「引き延ばし戦術」は功を奏するのか?
米中の貿易交渉がヤマ場を迎えている。今年1月以降、ワシントン、北京での閣僚級協議を何度も重ね、交渉ペースが加速している。最終的にはトランプ大統領と習近平国家主席との首脳会談で決着を図るシナリオだ。米国側の交渉を主導するのはライトハイザー米国通商代表。昨年5月にムニューシン財務長官が一旦、中国側と合意した内容を、トランプ大統領に“ちゃぶ台返し”をさせた張本人である。それ以来、トランプ大統領の信任を得て交渉を主導している。
米中貿易交渉は、交渉期限を当初の「厳格な期限」としていた2月末を延期して3月末、そして4月以降と、“逃げ水”のように先に延びている。当初、これはライトハイザー氏の常とう手段だ、と受け止められていた。
かつて80年代に日米通商交渉でライトハイザー氏と交渉した日本政府の先輩たちも同じような経験をしたという。これが交渉期限だと真に受けて、最終譲歩案を提示すると、ライトハイザー氏はあっさりとその交渉期限を先に延ばして、更なる譲歩を迫ってきたそうだ。こうしたかつての日本の苦い経験は中国側も相当研究していて、織り込み済みだ。
もちろん、構造問題という中国が妥協できない難物で交渉が難航しているのも事実だ。中国は共産党政権の統治に関わる国有企業の補助金問題などは譲歩できず、知的財産権問題では“見せかけ”の改善策でしのごうとしている(これについては、前稿「ファーウェイは米中協議の隠れた主役」を参照)。
中国としては、国内経済減速と習近平主席のメンツもあって、今回の合意で全ての制裁関税の解除を獲得できるかどうかに力点を置いている。北朝鮮が実質的に全ての経済制裁の解除を求めるのと二重写しになる。
一方、ライトハイザー氏は、中国の合意の履行を担保するために、合意違反があれば米国が一方的に制裁関税を再発動できる「罰則条項」を要求している。しかし、米国が一方的に中国の違反を判断して制裁するというのでは、国内から米国に屈したとの批判が噴出することが予想され、習近平政権にとっては受け入れ難い。
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