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冷戦モードの手法が繰り出される

 今後ファーウェイ問題だけでなく、昨年夏から頻繁に摘発している中国人エンジニアなどによるスパイ事件がこれからも続く可能性は大きい。こうしたモードになったときの米国の捜査機関、諜報機関の怖さを日本は80年代に経験している。

 また米国は戦略的な「新興技術」の海外流出させないための新たな法規制も準備している。いわば「新型の対中ココム」とも呼ぶべきものだ。

 当初米国独自で規制をスタートしても、その後、同盟国にも同調を求めてくることが当然予想され、日本にとっても大きな問題だ。こうした大きな動きがトランプ大統領による米中の関税合戦や米中交渉とは時に共振しながらも、別に独立して動いている。それが今の米国の本質的な二重構造だ。私はこれを“通奏低音”と“主旋律”と見立てて論じてきた。

米中交渉の成り行きは?

 それでは“主旋律”はこれからどういうメロディーを奏でるのだろうか。

 2月末にも開催される見込みの米中首脳会談。トランプ大統領、習近平主席いずれも合意したがっているので、開催されれば何らかの合意をするだろう。

 まずトランプ大統領。

 トランプ大統領は自分を「タリフ・マン」と呼んで、関税で脅して譲歩させ取引する自らの手法に自己陶酔している。所詮関税合戦という手段は対中政策としては本質論ではないが、そんなことは彼には無関係だ。中国から大豆の輸入拡大や形だけの知財の強化を“成果”として獲得して、支持層に誇示したいだけだ。今でも交渉は既に「とてつもない進展」とツイートしている。

 もう一つのトランプ大統領の関心は「株価」だ。昨年末の株価の乱高下を経験して、米中合意しなければ市場の失望から株価が急落しかねない。これは来年の大統領選に向けてトランプ大統領は絶対に避けたいところだ。米国経済も今年はそろそろ強気一辺倒というわけにはいかない。

 習近平主席はどうか。より経済的に追い込まれているのは中国だ。中国経済の景気減速も深刻になってきて、関税合戦によるダメージは是が非でも終わらせたい。
 また3月の全人代を控えて、国内から対米外交の失敗との批判が出ることは避けたい。

 こうした両者の合意は自然な帰結だ。

 ただし、今回は米中合意があっても、 “小休止”に過ぎず、単なる通過点だろう。

 中国の対応のキーワードは「しのぐ」。中国の制度論に関わるところが米国の懸念の本質だが、幸いトランプ大統領の関心事ではない。中国は小出しにして、表面的な対応(例えば知財の強化が典型)でしのごうとする。共産党の統治につながる経済システムのあり方に関わる本質に手を付けることはない。

米中は相手の弱点を攻める、したたか交渉

 中国の狙いは「首脳会談に持ち込む」ことだ。対中強硬派が仕切る閣僚協議より、取引での成果が欲しいトランプ大統領との直接会談に持ち込むのが得策だ。今回、劉鶴副首相が閣僚協議だけでなく、習近平主席からの親書を持ってトランプ大統領と直接会って、首脳会談に持ち込めたのは中国の目論見通りだ。

 これは北朝鮮がしたたかに繰り出している手法と同じだ。

 米国にとっての最大のリスクがトランプ大統領で、米国の政権幹部が最も避けたいシナリオだが、相手の嫌がるところを突くのが交渉の常套手段だ。

 他方、ライトハイザー米通商代表も中国の嫌がるところを突く交渉をしている。それは中国の「履行を検証」することだ。

 小出しの約束でしのごうとする中国の基本姿勢にどう対処するかが米国のポイントだ。そこで今後履行を検証することを要求している。中国が合意を守っていないと米国が判断すれば、米国は再び関税引き上げの制裁を発動できる。これは80年代の日米交渉でも見られた、「一旦譲歩させれば嵩にきて攻める」米国の常套手段だ。2020年の大統領再選まで、さらに対中国でのヤマ場を一山二山作って、支持層にアピールすることを狙っている。

 こうしてファーウェイ問題に象徴される“通奏低音”とは別個に、表面的には“主旋律”は“小休止”を挟みながら奏で続けられる。