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交渉に必要な「攻め」と「知恵」

 日本は断固、数量規制は拒否すべきだろう。その際、EUとしっかりタッグを組むことは不可欠だ。米国は当然、攻めやすい方から陥落させようとする。米国が先般、ドイツの自動車メーカー各社のトップをワシントンに呼んで順次会談したのはその一環だ。日欧お互いに疑心暗鬼にならない緊密な意思疎通が大事だ。

 また交渉は「守り」だけではいけない。「攻め」も同時に必要だ。日本のメディアの関心も「守り一辺倒」になる性癖があるのも問題だ。例えば、関税引き下げ交渉はギブ・アンド・テイクだ。かつてTPP交渉においても関税引き下げは二国間で交渉したが、日本の農産物の関税引き下げと米国の自動車関税2.5%の撤廃がパッケージになって日米間で合意したことを忘れてはならない。今後の交渉でもこれがベースになって、米国のアキレス腱の自動車関税の撤廃を要求して攻めるべきだろう。

 

 農産物の関税引き下げがTPPの水準止まり、それ以上の譲歩を強いられるかばかりに関心が行くのではなく、こうした点をきちっとフォローしていくことが求められる。

 

 前述した「実質的に全ての貿易」についての関税撤廃でないと関税引き下げができないこと、そして関税交渉は「ギブ・アンド・テイク」であるということ、といった当たり前のWTOルールを忘れてはならない。

 

大変革の自動車産業での日米協力の道

 

 そうした交渉ポジションに立ったうえで、知恵を出すことも併せて必要だ。

 

 数量規制ではない方策で「米国の自動車産業の生産、雇用にプラスになる」手だてもあるのではないだろうか。

 

 日米の自動車産業を取り巻く状況が、かつての90年代とは大きく異なる。

 

 90年代以降、日系メーカーの現地生産が進み、今や377万台に上り、米国の雇用に大きく貢献している。これは米国のビッグスリーの生産台数が570万台で、それに次ぐ大きさだ。逆にビッグスリーはここ15年間で米国での生産を360万台減らして、メキシコでの生産に切り替えているのだ。ビッグスリーが減らした米国内での雇用を、この間、日系メーカーが150万台生産を増やして補っている。

 

 これだけの貢献をしてきていることを当然、日本も繰り返し米国に説明してきているが、残念ながら、功を奏していない。

 

 日系メーカーはトランプ政権になって以降、発表した計画では200億ドル超の対米投資をして3万7000人の雇用を創出する。問題はこれでトランプ大統領の理解が得られるかだ。

 

 かつての90年代と違って、自動車産業を巡る環境変化は激しい。自動運転、カーシェアの普及などで新車需要が減り、自動車産業の構造そのものを大きく左右する。かつて成長していた米国の自動車市場も成熟して、もはや成長は期待できない。英国調査会社の調査によると、北米市場は2011~17年は年率5.3%成長していたのが、2018~25年は0%成長だ。経営者としてはなかなか将来に向けて対米投資を大胆に決断できる環境にはない。

 

 他方、米国のビッグスリーもかつての面影はもはやない。乗用車分野は弱体化してしまい、SUVなどライトトラックでやっと息をついている。GMは米国工場の一部閉鎖も発表している。

 日系メーカーとしてはこうしたビッグスリーとの研究・開発の協力を一層深め、事実上支えることも重要だ。現にすでに自動運転、燃料電池車、電動化など様々な提携がスタートし始めている。こうした動きを加速化することが大事だ。その結果、ビッグスリーも含めた形で、一体として米国の雇用と生産の維持にも貢献することにもつながる。

 

 胸突き八丁の今こそ、そうした知恵が問われている。