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自動車は「農産物のピン止め」の代償か?

 日本は農畜産団体との関係で、「TPPで合意した水準以上の関税引き下げの譲歩はしない」との方針で、それが昨年9月の日米首脳会談での共同声明に明記された。いわゆる「交渉で米国に押し込まれないためのピン止め」だ。これを成果として茂木大臣はアピールしている。

 しかし米国もただでそうした成果を茂木大臣にプレゼントするわけがない。案の定、交渉巧者のライトハイザー米通商代表はそれと引き換えに、あわせて米国の関心を明記させた。それが以下の文言である。

 

 「米国の自動車産業の製造及び雇用の増加を目指す」

 これは要注意だ。

 どういう意味か。日本の自動車産業の米国との関わりを見てみよう。

 

 米国の自動車販売台数は年間およそ1700万台で成熟市場になって、今後成長は期待できない。そういう中で、日系メーカーが米国で生産するのは377万台だ。これをさらに増加させるには、対米投資を増加させ、現在174万台である対米輸出台数を減らすことになる。その結果、日本での国内生産969万台は減らさざるを得なくなる。約86万人の国内雇用にも影響する大問題なのだ。

 今後の交渉では当然この文言を盾に米国は「対米輸出の抑制」や「対米投資増」を強く要求してくると考えるのが自然だ。これからの交渉の本丸は自動車で、その交渉の地合いはこの文言の挿入でスタートから日本は注文をつけられているのだ。共同声明の都合のいいところだけを見ていてはいけない。

「日本市場の非関税障壁」と「為替協議」は単なる交渉術

 米通商代表部(USTR)は昨年末、対日交渉に向けて22項目の交渉目的を発表した。
 そこにおいて自動車について日本の完全・環境基準といった非関税障壁の撤廃を挙げている。しかし米国は90年代から同じような主張を繰り返し、そのたびに日本が反論しているもので、できる限度いっぱいの対米配慮は既に措置済みであることは米国も本音ではわかっている。

 しかもかつての90年代と違って、米国の自動車メーカーは日本市場に参入する意欲はもはやない。欧州車の対日輸入は増えても、米国車は努力不足で減る一方で、今や撤退モードだ。

 ならば、なぜいつもながらの主張を性懲りもなく繰り返すのか。これはよくある米国の交渉術だ。「攻撃は最大の防御」で、米国市場の自動車関税を守るために、あえて相手方市場への要求を繰り返しているのだ。

 

 為替協議も要求しているのが米国の自動車業界であることがポイントだ。日本が円安誘導して米国への輸出を促進しているとの批判が背景だ。こうして批判をすることによって対米輸出を抑制する方向に議論を持っていく意図だ。

 いずれも日本のメディアはこうした米国の意図を理解せず、米国の主張を真に受けてそのまま報道するが、それは相手の思うつぼだ。