アニメーション界のアカデミー賞といわれるアニー賞(最優秀作品賞、最優秀プロダクションデザイン賞)を獲得した『ONI ~ 神々山のおなり』の堤大介監督と、連続起業家であり、初の著書『冒険の書~AI時代のアンラーニング』を出版した孫泰蔵さん。「PLAY! MUSEUM」(東京都立川市)で開催された「トンコハウス・堤大介の『ONI展』」にて、二人は久しぶりに再会を果たしました。それぞれの作品を通して世の中に届けたかった思いや、AI時代の生き方について語りました。堤大介さん率いるトンコハウスジャパンの共同代表を務め、孫泰蔵さんの長年のビジネスパートナーでもある宮田人司さんが聞きました。その前編。

真面目な子ほどAIに取って代わられるような教育のままでいいのか

宮田人司氏(以下、宮田):堤さんが監督をされた長編アニメーション『ONI』を初めて見たとき、僕は泰蔵さんと一緒だったんですが、泰蔵さんは恥ずかしいくらい泣いておられましたよね(笑)。まずはそのあたりからお聞きしましょうか。

孫泰蔵氏(以下、孫):はい、冒頭から号泣しました。というのは昨今、ChatGPTのようなAI(人工知能)が、ついに一般の人たちにも目に見える形で世に出てきましたよね。私はこれまで、AI技術を開発したり活用したりするスタートアップを応援してきました。最先端の世界を、皆さんよりはちょっとだけ先に目にしたり、触れたりするうちに「これは大変なことになる」と思うようになりました。

 最も危機感を覚えたのは、今までの学校で優秀だとか成績が良いといったことが、まったく意味がなくなるということだったんです。

左から、堤大介氏、孫泰蔵氏、宮田人司氏
左から、堤大介氏、孫泰蔵氏、宮田人司氏
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 学校は私が40年以上も前に通っていた時と基本的に何も変わっていない。いよいよAIが普及していく中で、みすみすAIに取って代わられるような知識や能力をいまだに教えている。そして一生懸命、真面目に頑張った子ほど、社会に出れば真っ先にAIに置き換えられてしまう。そういう状況をものすごく不幸なことだと感じました。これをなんとかしたいというのが、ここ数年思い続けてきたことなんです。

 『ONI』を見て初めから号泣したのは、この問題が、とても丁寧に説明されていると感じたからなんです。『ONI』に登場する神々山の子どもたちは学校へ行って、天狗からこう言われます。「偉大な力を習得し、鬼を打ち負かす者もいるだろう」。それを信じて子どもたちは一生懸命に「クシの力」と呼ばれる力を得るために励むんです。

 けれど、自分の「クシ」がなんなのか分からない主人公のおなりは、クラスメートからばかにされる。おなりのお父さんのなりどんも、へんてこなおやじだとからかわれる。おなりはそのことがとても恥ずかしいし、怒っているわけです。

 でも、なりどんが伝説の英雄である雷神様だとみんなが知った途端、その評価が一変します。著書『冒険の書』では、このことを「メリトクラシー」という言葉で説明しました。実績を出せた人だけが偉く、出せない人には価値がないという今の社会の問題点を、『ONI』は数分のシーンだけで見事に描いていると思いました。

「ONI ~ 神々のおなり」(C)2022 Netflix 写真提供:トンコハウス
「ONI ~ 神々のおなり」(C)2022 Netflix 写真提供:トンコハウス
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