居林:前回のコラムは「いよいよ弱気相場入り。でも日本株は意外に堅調?」(2022年7月15日掲載)でした。2カ月たってどうだったのか、というと相変わらず。状況は変わっておりませんで、海外の投資家さんは売っている一方、しかし、日本企業が自社株買いをしているので日本株は支えられていると、こんなふうに見てもいいと思います。

 背景としては、新型コロナウイルス禍でできなかった株主還元が再開しているということで、それ自体は良いことだと思います。しかし、構造的な問題は残っているように見えます。こちらを。

キャッシュがたまって、投資(資産)に行かない
キャッシュがたまって、投資(資産)に行かない
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 東証株価指数(TOPIX500)に採用されている企業で見ると、現金と現金同等物(定期預金、譲渡性預金、コマーシャルペーパーなど)が増えて、負債の比率が下がっている。

居林:コロナ禍前と比較しても、2019年3月に100兆円あった現金と現金同等物が22年3月には138兆円まで増えているのです。

 すなわち、財務体質の改善ということでは。

「現金ため込み」では本当のリスク対策にならない

居林:それはそうなのですが、私には財務体質改善という名の「現金ため込み主義」になっているように見えます。これは大変よろしくありません。現金でただ持っているならば、企業に置いておく必要はないですから、投資をするのか、株主に返すのか、どっちかにすべきだと考えます。

 以前、けっこうな大企業の財務担当役員の方にまさに「現金ため込み」のお話をうかがったことがあります。「リーマン・ショック(08年9月)以来、お金が手元にないと怖い、というトラウマが消しがたく自分たちの中にある」と、率直におっしゃっていました。

居林:それは分かります。しかし、お金をため込むことで「次の危機に備えているんだ」という気になっているのだとしたら、やはり非常にまずいと思います。耐久力は必要ですけれど、現金をためるだけならそれは「衝撃を受けてもすぐには倒れない」というところまでの話です。

 「攻撃は防御なり」と言いますが、衝撃の先を見るというか、衝撃そのものが影響しにくい企業体質、つまり競争力のある製品、サービスをつくるために、先行投資を行っていく、そして利益率を高めていくことこそが、本当の意味でのリスク対策です。売上高が少し下がっても赤字にならないからです。

ROEが低いのは、豊富な資金を持て余しているから
ROEが低いのは、豊富な資金を持て余しているから
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居林:ご覧の通り、日本企業の予想ROE(ROE=Return On Equity、自己資本利益率、当期純利益/自己資本×100)は相変わらず低いままで、これだと海外投資家はなかなか手を出してきません。

 10年前から変わらず、元気が出ないお話ですねえ。だから円安が進んでも、日本株は上がってこないんでしょうか。「どうせ、お金をため込むだけだよ」くらいに思われて。

居林:それはちょっと面白い質問ですね。この連載では個別企業の業績の話は基本的にしないのですが、今の円安が業績にプラスになるはずなのに、株価は反応してない会社がいくつか見受けられるので、そこから考えてみませんか。

 いいですね。

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