つまり「営業利益と株主価値、どちらを(投資家である)あなたは信じるのか」と突きつけている。もちろん孫さんは、投資会社であるSBGは後者をもって評価されるべきだと。

居林:そう。そしてこの決算発表時のSBGの株価×発行済み株式数、すなわち時価総額は約12兆円。一方で株主価値は25兆円。市場は、SBGの価値を半額以下にディスカウントしているではないか、と、孫さんは投資家に訴えているのです。

なんだか、ロジックとしてはちゃんと成立しているんですが……。

居林:はい、「ですが……」からが、この発表に対して自分で考えて学ぶところですから頑張ってください。

そうだ、「株主価値が5兆円増えた」と孫さんがおっしゃるたびに、頭の中でちらちらするのが「でも、それって計算上のもので、実現可能な利益とは違うよね」という。

居林:でも、株主が株を買うことに対する対価は、配当金を除けばそういうものじゃないですか。

ううん……ものの言い方でしょうかね。投資の指標としては「株主価値」に意味はある。だけど、リアルに5兆円が増えたということではない。そこが混乱しがちなのが気になるんです。先ほどの市場のボラティリティ同様、投資家ならば誤解しないと思うのですが、ぱっと言ってしまうのはちょっと危険じゃない? と。

「価値」にはいろいろな物差しがある

居林:はい。あらかじめ念押ししておくと、孫さんの言い方に間違いはありません。でも、「何か違う」と感じているのはこういうことでしょう。今、25兆円の株主価値がある。そう言う孫さんは、即座にウーバーを売れるのか。アリババを売れるのか。そしてもし売りにいったら、この値段で売れませんよね。

孫さんが売りに出たとなったら、ウーバーもアリババも株価が大きく下がりそうです。

居林:鉄道会社が、線路を引いた土地を資産として保有していますが、土地の価格が上がったらこれを売れるか、ということですね(もちろん、リースバックはなしです)。

そうです。売るわけにはいかないもの、あるいは、売れるかどうか分からないものの値段が上がることは、心理的には嬉しくても、単純に銀行の預金が増えてくれることとは違う。投資家でない自分には、そこに違和感があるんです。

居林:うーん、「25兆円がソフトバンクの株主価値である」という論理は、論理としては正しいけれど、それはそもそも「換金可能」という価値の前提には立っていない。これは確かに投資をされない方には分かりづらいし、だからこそ知ってほしい部分でもありますね。

 問題は、「価値」とは何かということだろうと思います。世の中には価値があるものが当然いくつもあります。服でも、車でも、時計でも、絵画でも、「価値」はある。ところが、妥当だと思える価値は人によって違いますよね。そこに一つの「価格」を提示されると、それを安いと思うか、妥当だと思うか、それとも高いと思うのかは人それぞれということになるわけです。なので、株価は一部の人の価値観の反映であり、自分と同じでなくてもいいのだと思います。

なるほど。投資家の価値、投資をしない人の価値、それが違うのはある意味当たり前です、と。

居林:この動画は、やはり投資家にはもちろん、投資をしない方にも学びになります。良くも悪くも、株式投資をするということ、株主になっているということの意味を再認識できる。投資家でない方には「投資」の考え方が学べる。

 「SBGの株主価値について、自分で考えてください。私はこう考えています」。これがこの動画の中身です。最初に申し上げた通り、それに賛同する、しないは個人の自由で、株価と一緒です。株価は誰かが付けた値段。賛同するかしないかはあなたの自由。孫さんは「間違っている。なぜならば」と声を上げた。投資家ならば、孫さんが正しいかどうかについて、間違っていると文句を言う必要はない。そう思ったら売ればいい。

ちなみに、居林さんはどうお考えなんですか。25兆円と12兆円、どちらが正しいのか、あるいは、どちらも違うのか。

居林:私も考えました。そして自分なりの結論は出しました。でも「投資家ならば自分で考えようね」と返しておきましょうか(笑)。

ちょっとズルくないですか(笑)。

居林:今の時点で「確実な答え」はないはずなんです。「あるのは確率だけ」と言ったのはアメリカの元財務長官のロバート・ルービン氏ですが、「分からないことがあるのに意思決定をする必要がある」というのが投資のプロセスの勘所だと思います。現在進行形の新型コロナウイルスの問題も景気、業績にどう影響するのか、いつ終息するのか、株価はどこまで織り込んでいるのか、疑問は尽きませんね。

 私は今年の日本株は厳しいと思っているので、軽々に買いに動きたくないですが、企業業績が前半大きくマイナスになって、後半逆に大きく戻るのは見えてきました。株価次第では買いも考慮するタイミングがくるかもしれません。前に申し上げましたが、ぜひノートを取って、ご自分の考えていることを書いてみてください。驚くほどいろいろ頭の中から出てきてきっと紙が足りなくなると思いますよ。私はいつもそうで、後の方の字が小さくて後で読むのが大変になりますけど。

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