居林:はい、合っています。孫さん、すなわち投資家が企業の何を見ているかというと、株主価値を見ているのだと。ここまでは私も、もう100%以上アグリーで、「素晴らしい、よくおっしゃった」と。海外の同僚にも動画リンクを添えて送ったくらいです。ただし、忘れてはいけないことがあります。分かりますか?
はて?
居林:株主価値には、いわゆる市場時価総額、マーケットが付けた値段と、投資家が妥当だと思う妥当株価、妥当時価総額……妥当株主価値とでもいうんでしょうかね。その2つがあります。
市場が付けた値段が唯一無二の「時価総額」じゃないんですか。
居林:市場価格はマーケットが付けた、つまりは、自分以外の人が付けている値段じゃないですか。「株価は他人が付けるものである」というのは、第1回でお話ししたかと思います。しかし、それが正しいかどうかを判断するのは自分の勝手、投資家の勝手なのです。人様がそうだと言うから、私が同じ判断を下さねばならない、という義理はないわけですよ。
はー。
居林:「市場は常に間違っている」というのはジョージ・ソロス氏の言葉ですが、問題は市場が付けた値段に対して自分がどう考えるのかということだと思います。
そうでした。「市場の間違い」の逆を行くというのが、居林さんの投資家としての基本戦略ですものね。
居林:ファッションと一緒で、皆さんが同じような服を着る傾向はあるんですよ。あるのですが、それに流される必要も別にないわけです。逆に言えば、流されてもいいんですよ。それ自体に「正しい」「間違い」はないと思いますし、好きな流行だったら取り入れてもいい。逆に、いくら流行でも趣味でなければトレンドに乗らなくてもいいわけです。問題は自分が「乗る」のか「乗らない」のかを、自分で理由を考えて決めることでしょう。
株式市場に置き直すと、現在市場で成立している株価は同時にその企業の株主価値(時価総額から負債を引いたもの)を提示していることになります。申し上げたいのは、他人は別として、あなたが投資家としてその企業を見たときに、「その企業の株主価値はこうだろう」と思う。それが市場と差異があるのかないのか。あっても当然だし、ないこともある。差異があったときに投資するのか、しないのかという判断をしていくということだと思っています。
市場の大勢がこうだから、みんなが赤い服を着てるから、ではなくて。
居林:はい、自分の思考のステップを踏むべきなんだということを、孫さんのあのプレゼンから抜き取ってほしい。それが一番大事なところです。その孫さんでさえ、ウィーワークで失敗するわけです。皆さんも、当然私も失敗をするのですが、それで終わりではなくその先がある、ということも同時に学べたという。
この動画は、「孫正義」という経営者の「株価に対する考え方」であって、正しいかどうかではない。否定も丸のみもしなくていい。
居林:私にとってはそこから「自分がどう感じるか、それはなぜか」を考えることが、とても大切な学びでした。
では、そのお言葉に乗っかって質問しちゃっていいでしょうか。今回の孫さんのお話を聞いて何を考えるか、ですが、個人的に、そして多くの人が「へえ」と思うのは、35分30秒あたりからの、会場に詰めかけた記者団へ投げかけたクエスチョンだと思います。

居林:SBGの事業の一つ、SVF(ソフトバンク・ビジョン・ファンド)が投資しているウーバー、SBGの関連会社のアリババ、それぞれの株価の変動がSBGの業績に反映「される」のか「されない」のか、というお話でしたね。
はい。SBGが直接保有しているアリババの時価総額の変動はSBGの営業利益には反映されません。一方で、SBGが出資する投資ファンド、SVFが保有するウーバーの時価総額変動はファンドの価値の変動を通じてSBGの営業利益に反映される。
居林:記者の中から手を挙げて、この正解を答えたのはたった1人。孫さんは「問題ですよ。これを知って、ものの見方を明日から変えてください」と言いましたね。この問いには正直、テクニカルな部分があって、えっとえっととなって私もすぐには答えられませんでした (笑)。
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