5月のこのコラム「『米中貿易摩擦』で“思考を止めるな!”」で、居林さんはこんな見方を示されました。
「中国は半導体を中心とする過剰投資とその反動で現在景気が落ちている。米中貿易摩擦はきっかけで、原因はオーバーサプライの反動。だから日本企業も受注が落ちていた。」(同記事4ページ参照)
「米中貿易摩擦を意識しすぎた悲観論が出ていますが、昨年末の『貿易摩擦=中国初の景気後退』という刷り込みが効きすぎている。しかも、これは政治問題がきっかけで、より大きな原因は中国の過剰生産だと判断しています。そして、半導体市場の成長力、直近の受注、在庫、マネジメントの意識などから、その影響もそろそろ底を打ったように見える。」(同5ページ)とも。
居林:はい、そうでしたね。
その後も、中国景気の悪化とそれに連動する日本企業の減益報道が相次いで、8月には市場が凹みましたが、9月から盛り返し、現状は2万1000円台後半から2万2000円を超えてきた状況です(10月21日時点)。
堅調な相場を支える認識の変化
居林:そうですね、貿易問題激化→景気後退→株価下落というシナリオにはならないだろうと思っていました。
もちろん、そうなる可能性もありました。しかし、当社の中国チームや米国チームの分析なども踏まえると、2019年後半から2020年前半にかけて、企業の業績は在庫調整を終えて、回復する可能性が高いと思っていました。5月はその糸口を探していた段階でした。
もし、「米中貿易摩擦が株価を押し下げる」ということであれば、今年に入って関税の引き上げは何度も発表されていますし、実際に引き上げられてもいます。従って、株価はさらに下落しておかしくない状況でした。しかし、株価は米国、中国ともに2ケタの上昇ですし、日本の株価も今年に入って2万円を割らずに来ました。
「オーバーリアクションだった」と、だんだん理解が広がってきたということですか。
居林:半導体の市況やメーカーの決算情報が出そろうにつれ、ようやく「中国の景気悪化は、貿易摩擦はきっかけの一つで、実は2017年、2018年の過剰生産の調整だった」という認識が市場関係者に広がってきました。足が速い民生用の半導体、DRAM、NANDが上がり始めました。韓国サムスン電子の決算も、半導体やディスプレイが好調でしたね。半導体には関税導入の駆け込み需要が発生している面もありますが、5月時点で考えていた、価格低下による需要の増大が起こり、メーカーも過剰在庫の調整を終えて再び供給を増やしつつあります。
日本企業の業績(純利益ベース、TOPIX500)で見ると、4-6月期は前年同期比で-14%だったものが7-9月期は-8%まで回復、10-12月期は5%増益、3月期は8-10%の増益へ、と見ています。株価が2万2000円へのトライを成功させたことで、5月の時点で立てたストーリーに追いついてきた。というか、株価に反映してくるのが思っていたよりちょっと早いですね。スピード調整は起きるかもしれません。
これは批判ではなく事実として、経済指標を使った「景気動向」の分析はどうしても後追いにならざるを得ないと思います。経済構造やその変化を理解するにはそれでよいのですが、投資家であれば、動向の先駆けになる数字を、自分なりの根拠で探して、ストーリーを立てないと。
株式投資は自己責任なので、最終的には自分で答えを出すんだ、と私は思っています。分かりやすい解説は素敵ですが、必ずしも正しいとは限らない、と、長年この仕事をやって身に染みました。
今回は、米中貿易問題という大きな見出しが出て、それでビジネスの動きや株価がきれいに説明できていたのですが、それだけが株式市場で起きていることではないわけです。特に政治関係のイベントは株式市場に長期間のインパクトを与えることは稀です。ですから、今のマーケットのコンセンサス(雰囲気とでもいいますか、メディアを含めた多くの人の理解)とは違う、先に動く指標を探さねばならない。
5月の記事は、その参考になるかと思います。
居林:ところで6月の記事(「内部留保をため込む企業は『けしからん』か?」)、あれはタイトルがやや扇情的だったかもしれませんね。
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