居林:さて、19年3月期が終わり、20年3月期に入るわけですが、利益の伸び率は業界(証券会社)各社がお出しになります。多い数字はプラス5%~10%といったところですか。

 この予想は「ボトムアップ予想」と呼ばれます。アナリストが入れた数字を足し上げたモノです。「トップダウン予想」もあります。マクロの観点から、為替がこのくらい、GDPはこのくらいだろう、とまず考えて、よって業績は何パーセント伸びる、というものですね。

とはいえ、19年のお話から推して、ボトムアップの業績予想もだいたい楽観的に始まって、途中で下向きに修正されたりするわけですよね。

居林:そうです。個別企業担当のアナリストの業績予想はどんどん変わります。変わらなければおかしい。19年半ばを過ぎれば21年3月期の予想も入るわけです。

1年どころか2年先の話を織り込むことになる。そういう意味では、アテにならないのでは。

居林:業績予想がそのまま当たるかというと、期初時点の予想は確かにあまりアテにはなりません。なぜかというと、繰り返しになりますが、ある会計年度の業績があったとして、それは時間とともに変化するからです。なので、ある時点で業績が伸びる予想になっている企業が、実は業績が悪化したということは十分にあり得ます。

 一方で、今期がダメだから来期もダメ、とは限りませんし、その逆もしかりです。常に一定の将来を見ながら株式市場は動いていると思います。これは、動いている車のヘッドライトが照らしている範囲がいつも一定の距離の「先」、というイメージで考えるとわかりやすいかもしれません。

業績「予想」の一歩先を歩め

居林:業績予想が変わっていくのは、それはそれでいいんです。確かに、市場全体で見れば期初時点の業績予想は実績になるまで20%程度は上下するのが普通です。

 「じぁあ、アナリストの業績予想は当たらないってことじゃないか」と言いたくなるかもしれませんが、アナリストの予想は、市場が業績についてどう考えているのかを教えてくれますし、それが株価の先行きの目印にはなります。忘れないでください。株価は「業績」の関数ではありません。業績「予想」の関数であって、私たちはその予想の変化の一歩先にいるのが大切なんです。

ううむ、そうですね。しかし、そもそも、複数のアナリストがよってたかって出した数字を合計しても、一貫性というか、信頼性ってあるんでしょうか。

居林:アナリストによって業績予想の精度にばらつきが生じるのでは、やむをえません。繰り返しになりますが、それよりも大切なことを市場コンセンサスというのは教えてくれます。

 前回いただいたコメントで、私の「企業投資の判断をするアナリストとして株式市場を動かす貿易問題を『市場が』どう受け止めたのかを理解することと、自分がどう考えるのかは切り離して考える必要があると思うのです」という発言を評価してくださった方がいらっしゃいました。あれは嬉しかったですね。

 株価判断は、まずは業績について「世の中の大多数」がどう考えているのかを知るのが大事。そうなれば、世のアナリストが公表している数字を全部使うことで、他の投資家がどう考えているのかを理解するのがいい方法だと思います。

 一つ、大事な注意ですが、このコンセンサス予想というものは、敵でも味方でもありません。一緒だからといって喜んでもいけませんし、違うからといって無視することもできないと思います。

なるほど。

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