2020年2月17~20日に開催されたビジネスサミット「ICC FUKUOKA 2020」のセッション「子育て経営学~私たちは子供をどう育てていくのか~シーズン3」の登壇者たち。左からモデレーターの武田純人氏(元UBS証券アナリスト)、田口一成氏(ボーダレス・ジャパン代表取締役社長)、重松大輔氏(スペースマーケット代表取締役社長)、南章行氏(ココナラ代表取締役社長)、中村俊介氏(しくみデザイン代表取締役)
武田氏(以下、敬称略):皆さん、こんにちは。モデレーターを務める武田純人です。プライベートでは、小学生男児の父親で、妻子は広島に、僕だけ東京で暮らすという「遠距離子育て」を実践中です。
さて、旬のビジネスリーダーが子育てについて熱く語る本セッションも3回目となり、今回は参加者の方々とも一緒にディスカッションするラウンド・テーブル形式で開催いたします。まずは登壇いただく4人の皆さんから、自己紹介と「子育てのこだわり」を一言ずついただきます。
重松氏(以下、敬称略):スペースマーケットの重松です。子どもは3人、上から長女10歳、長男7歳、次男5歳です。妻はベンチャーキャピタリストで週3~4日は帰宅が遅くなります。
共働きで3人の子どもを育てるために心がけていることは、「子育てシェア」です。妻のご両親のほか、家事代行やシルバー人材センターから派遣されるご近所スタッフさん。近くに住んでいるパパ友やうちの社員とも子どもの預け合いをして、とにかく“貸し借り”をしまくるようにしています。
もう1つ、わが家の合言葉になっているのが、「チーム重松」。きょうだいゲンカや何かちょっとした問題が起きると決まって、「チーム重松として、どうしていくか?」という感じで話し合います。5歳の末っ子が10歳の姉に対して「それって、チーム重松としてどうなの? 苦しいときほど助け合うんでしょう!」なんて反論するんです。
南氏(以下、敬称略):重松さんとはお互いにラグビーファンだという縁で長い付き合いですが、今まで聞いた中で一番いい話だなぁ(笑)。重松家は共働きで夫婦共にめちゃくちゃ忙しくて、子どもたちと過ごせる時間も限られるはずなのに、どうしてあんなに結束が固いんだろうと不思議でした。チーム感を出す声がけを日ごろからしているんですね。
武田:とってもいいですね、子育てシェア。皆さんも同じような取り組みをなさっていますか?
田口氏(以下、敬称略):僕はここ福岡で、社会起業家のビジネスを支援するボーダレス・ジャパンという会社を経営しています。うちも12歳、9歳、6歳の3人を育てていますが、子育てシェアをよくしています。僕は「家族や親族とは近くに暮らしたい」と思っていて、実家のすぐ近くに住んで、毎週末、孫の顔を見せに行くのがルーティンです。飲食店を経営している弟家族も近くに住んでいて、お互いに忙しいときに協力し合っています。
南:申し遅れました。ココナラというスキルシェアのサービスを提供しています南です。うちはシェアという意味では、夫婦の役割をしっかり分けていて、いわゆる“昭和な家庭”です。今どきのイクメンではまったくありません。ただ、それはお互いに合意したことで、「僕は君と子どもたち、僕と君の親、3世帯を養うくらい稼ぐ。その覚悟で生きていく」と約束したんですね。
南:家庭によってそれぞれですよね。うちの妻は働いてなかったけれど、料理や掃除を徹底的に極めた結果、下の子が中学生になった今、主婦経験を生かして産後ヘルパーのサービスを始めています。結果的にビジネスになっちゃったという例ですね。
武田:夫婦の役割分担というのは、興味深いテーマですよね。子育てにおいて南さんが意識をされている役割は何ですか?
南:妻の話を聞いて、悩みがあれば解決するための原則的な考え方を提示するくらいです。子育ては本当に簡単ではないから、悩みは尽きないですよね。悩みがあるたびに、ぶれない子育ての軸を確認し合う相手になってきた。そんな感じですね。
武田:中村さんはいかがですか? 夫婦の役割分担について。
中村氏(以下、敬称略):しくみデザインの中村です。8歳の娘がいます。僕の場合、妻が専業主婦ですが、料理は僕がやっています。なぜかというと、僕のほうが料理は得意だからで、その代わり、掃除や片付けはまったくできないので妻に任せています。互いに得意なことをしよう、という方針です。
武田:なるほど。それぞれが出せるバリューを尊重するということですね。では、皆さんの「子育てのこだわり」について、さらに聞いていきましょう。田口さん、いかがですか?
「自己肯定感」の育み方
田口:さっき重松さんが言った合言葉でいうと、うちで一番多く発せられる言葉は「パパ大好き」です(笑)。なぜ一番多いか。理由は、子どもたちが学校から帰ってきたとき、マンションの玄関のオートロックを開錠するときの“合言葉”を「パパ大好き」だと教えているからです。インターホン越しに「おかえり! 合言葉は?」「パパ大好き!」「オッケー。開けるよ」というふうに(笑)。
武田:完全に言わせてますね(笑)。
田口:言わせています。そんな日常ですが、僕が唯一、親として子どもに授けたい力はこの「楽しく生きる力」です。生きているといろんなことがあるし、環境に対する不平不満はありますよね。でも、見方を変えればいい面は必ず見いだせる。子どもたちにも本物のポジティブシンキングを身につけてほしいと思っているから、普段、夕食を囲むときには「今日、何が楽しかった?」と聞くんです。なんでもない日常の中にも楽しみを見いだせる人間に育ってほしいですね。
武田:僕もよく息子に「何か楽しいことあった?」と聞くんです。けど、「別にない」と返されちゃうことが結構多いんです……。
田口:いやいや、うちの子もたいした答えは返ってこないですよ。「サッカーで1点決めた!」とか、そんな程度です。
もう1つよく言う言葉が、「お前たち、天才だな!」です。ちょっとすごいなあと思うことがあったら、すぐ言っちゃいます。
南:いいですね。うちも今のところポジティブな性格に育っています。こちらから質問する隙もなく、「今日の朝ね、学校でこんなことあってね」「学校から帰ったらね、友達の○ちゃんがね」とずーっと笑いながらしゃべっているから、「こいつ、幸せなんだろうなぁ」と黙って聞いています。
武田:中村さんは親子でそういう会話をします?
中村:僕も学校の様子は聞くようにしているのですが、娘はいつも「クイズ形式」で僕に答えさせようとするんです。「このとき、○ちゃんはなんて言ったでしょ~か?」って、分かるわけがないですよね(笑)。一生懸命答えてもかすりもせず、結局、会話にならないということが多いです。一度誕生会にドラクエごっこやってから、「誕生会=ゲーム大会」という定義ができてしまったようで、毎年誕生会に僕はいろんな役をさせられます。娘がアニメの「すみっコぐらし」にハマっていたときは、“草役”、先日は「ファントミラージュ!」というテレビ番組の悪役、「イケナイヤー」の役をさせられました。
武田:なかなかまねが難しい子育てのノウハウですね(笑)。
中村:僕自身が心がけているのは、「楽して楽しい」ことです。家事分担でも、得意な料理を担当するのは楽をしたいから。ではなんで楽をしたいのかというと、楽しみたいから。娘に伝えたいことはただ1つ。「パパは毎日生きているのが楽しいぞ!」ということ。家に帰って一緒に過ごす時間で、どれだけ僕自身が楽しむ姿を見せられるかが大事だと思っています。
武田:親として、自分の仕事をわが子にどう伝えるかも重要なポイントだと思いますが、この点はいかがですか?
重松:自社のサービスについて取材をしていただける機会も多いので、たまたま子どもが番組や記事を見たときにここぞとばかりに話をすることが多いですね(笑)。「パパはこういうふうに人が困っている問題を解決して、喜んでもらうために仕事をしているんだよ」と。
妻もベンチャー企業の創業支援に関わっているので、投資先のスタートアップ企業について子どもたちによく話をしています。「この会社の創業者はこういう思いで世の中をよくしようと頑張っているんだよ」みたいに。チャレンジに対して前向きな気持ちを育てたいというのは、夫婦共通のゴールですね。だから、子どもたちは3人とも「将来は起業したい!」と言っています。
武田:僕は会社員時代、「お父さんがどんな仕事をやってるのかよく分からない」と言われ続けていました。なんとかしたいなと思って、あるとき、知り合いに頼んで、息子の前で僕のことを褒めてもらったんです(笑)。「君のお父さんはこういう仕事をしていて、すごいんだぞー」と。「お父さん、大人から褒められてる……!」と息子の目つきが変わりました。
田口:僕はあまり詳しくは説明していないですが、ざっくりと「人を助ける仕事をしているよ」くらいの抽象度で伝えています。あと、出張に一緒に連れて行くこともよくあります。この前もバングラデシュに連れて行きました。父親がどんな仕事をしているかは、現場に連れて行くのが一番分かりやすいかなと思います。妻が僕のことを結構褒めてくれるのが大きいかもしれないですね。
南:子育てを充実させるための変数はいろいろありますが、「夫婦間でリスペクトがある状態を維持する」というのが、僕は一番大事ではないかと思っています。
「自己肯定感」の育み方
武田:そんな南さんは、子育てで特にこだわっているポイントはありますか。
南:僕の場合は、長男が16歳、長女が13歳になって、「子育て」というより、一人の人間としてどう生きるかを引き出していくステージに入りました。大事にしてきたキーワードは一貫して「自立」です。自分に向き合って、自分で考えて、自分で決められる人間に育てること。
だから、うちではクリスマスやバレンタインデーのような世間が決めた記念日を祝う習慣は一切ないんです。幼稚園くらいから「サンタはさ、こういうことになっていて」と話してきたし(笑)。その代わり、誕生日とか結婚記念日とか、個人や家族にとって本当に意味のある記念日は一緒に祝うんですね。そういえば、今日はちょうど21回目の結婚記念日なんです。
会場:拍手
南:ありがとうございます。何が言いたかったかというと、世間のルールに従って満足するのではなくて、「自分にとってどうなのか」という視点で常に考え、幸せを見出してほしいと願っているんですよ。
世の中がどんなにシビアだったとしても、負けないくらいの圧倒的な自己肯定感、自己効力感を持って切り開いていける人間に育ってほしい。それにこだわっていった結果、子どもたちは2人とも、いつもゲラゲラ笑っているし、友達も多いし、いじめられっ子とか関係なく、自分が友達になりたい子と仲良くなるし。“個として生きる”という感覚は確実に備えていってくれているなぁと、実感しています。
一方で、「家族は一緒に過ごすべし」という世間体にもとらわれないから、旅行も家族そろって行ったことはそれほどありません。だから、僕の子育ては賛否両論だと思います。
武田:南さんの子育てについて、会場から質問はありますか。
参加者A:経営者だからこそ子どもに与えられるものは多いと思いますが、逆に経営者ゆえに子育てでやりづらい点、うまくいかない点はありませんか。
例えば、お金の使い方についてです。僕は経営者でもお金持ちでもないのですが、子どもにはつい、いろいろと買い与えてしまいます。この先、金銭感覚がゆがんでしまわないかと不安になることがあります。
重松:お金については結構シビアに伝えています。子どもたちに対しては「うちにはそんなにお金はないぞ」と言っていて、「頭を使ってお金を使わずに楽しむ方法を考えるんだ」と教えています。また、お小遣いに関しては子どもたちが、何か新しいものをクリエートしたり、お手伝いをしたりした「対価」として渡すようにしております。黙って手を出せばお金がもらえるなんてことは社会ではまずありえない。まずは圧倒的な成果を出して、初めてお金をもらえる資格があるのだというビジネスマンのルールを幼少時から教えております。
中村:経営者ならではの迷いどころとしては、「よくも悪くも、子育てと事業が不可分であること」ですね。つい先日まで100%自分で出資していた会社なので、事業の方針も働き方も意思決定は自分次第。15年前に福岡で起業したときは、大人向けの楽器や商業施設のサイネージなどを作っていて、東京にもしょっちゅう出張に行っていたのですが、娘が生まれてからは急に行かなくなりました(笑)。すると案の定、仕事が激減して。「あのときはどうなるかと思いましたよ」と社員からも言われます。
それから子どもが成長するにつれ、会社の事業もだんだん子ども向けのサービスにシフトしていきました。今はビジュアルプログラミング言語を作る会社になっています。決して娘のために事業を開発しているわけではないのですが、どう考えてもタイミングは一致する(笑)。無意識のうちに、ものすごく子どもにビジネスが引っ張られている気がしますね。
子どもに仕事への情熱を語るチャンスを逃さない
参加者B:南さんに質問です。私は南さんのように子どもを自由闊達に育てたいのですが、当の本人はいたって真面目で優等生タイプ。どうやったら南さんのような子育てができるのか、ヒントをいただきたいです。
南:別にいいんじゃないですか。本人が真面目にやっていきたいなら、そのままで。
参加者B:真面目でもいいのですが、もう少し自己肯定感を高められないだろうかと思っているんです。
南:そういう意味では、うちは本人がやりたいことを否定せずに全部「やってみたら?」と言ってきました。ただし、無理に誘導しないことが大事です。子ども自身が「やってみたい」と言い出す瞬間を見逃さずに、うまく拾うようにしてきました。
例えば、長男は料理がすごくうまいんですね。小学生の頃の誕生日プレゼントに「自分専用の包丁が欲しい」というくらい料理が好きで。今週末は彼がケーキを作ってくれる約束で、ケーキもなかなか本格的でうまいんですよ。
なぜそんなに料理好きになったかというと、子どもは3歳くらいになると「僕も切りたい」などと言って料理をしたがりますよね。息子が初めてキッチンに興味を持ったとき、妻は「やっていいよ」となんでもチャレンジさせたんですよ。息子は何度もボウルをひっくり返すんだけれど、なんとか我慢しながら「やっていいよ」と任せた。結果、彼は料理が好きになって、うまくなっていったんです。
参加者B:なるほど。親が子どもの「やりたい」という気持ちを受け止める力が問われるんですね。
南:そうかもしれないですね。もちろん、駄目なものは駄目と言うべきときもありますが、基本的には本人の興味や関心を奪わない。一方で、「本当はこれをやってほしいんだけどなぁ」と涙を飲んだこともありましたよ。
僕はラグビーが大好きで、「いつか息子とラグビーを」というのがずっと夢だったんです。小さい頃はいいスクールがなかったのでサッカーをやっていて、そのうち本人が「サッカーをやめる」と言い出したので、「よっしゃ、そろそろか」とラグビースクールに連れて行ったのですが、結局、同級生に誘われて野球を始めてしまいました。
めちゃくちゃつらかったです。「俺の人生の夢が……」と。しかし、「こいつが『野球をやりたい』と言ってるんだから、それを応援する。そうやって育てていくと、自分で決めたじゃないか」と自分で自分を納得させました。きっとBさんの息子さんも、絶対に何かやりたいことはあるはずなので、それが見つかったときには応援してあげてください。
参加者B:そうですね。ありがとうございます。もう1つ、他の方にも伺いたいのが、先ほども話題になった「父親の仕事をいかに理解してもらうか」という点です。
私は大企業からベンチャーに転職しました。転職を機に息子との時間も大切にしたいと考え、朝は息子を送り出してから仕事に向かうライフスタイルに変えたのですが、本人から「仕事に行かなくて大丈夫なの?」と心配されるんです。実際は今のほうが濃密に働いているし、より稼いでいるのですが……。どうしたらうまく伝わるでしょうか?
中村:うちの娘は完全に、「パパは毎日遊びに行っている」と思っていますよ(笑)。そもそも僕は仕事と遊びの区別はなくていいと考えているので、そう思われるほうがむしろうれしい。実際、オフィスもボールプールを置くなどして社員がいつでも子どもを連れて来られるような環境にしています。そうしたら、夏休みは子どもがたくさん遊びに来るようになりました。ご質問の答えですが、僕だったら子どもに「遊ぶのも大事なんだよ」と伝えます。
南:「パパの仕事、大丈夫なの?」と聞かれたときがチャンスだと思いますよ。僕は自分の本でも書いたのですけれど、長男が生まれたタイミングで、最初に勤めた銀行を辞めたんですね。そのときは、「自分の子どもに対して誇れない仕事は絶対にしたくない」という決意がありました。しかし、相手はまだ0歳だったから、その気持ちをすぐには伝えられなくて、でも、いつかは伝えたいと思っていました。
チャンスがやってきたのは、僕が投資ファンドを辞めて起業したばかりの頃です。8歳になっていた息子が、「パパ、会社辞めたんだって?」と聞いてきたんです。「前の会社のほうが給料たくさんもらっていたし、社長って大変なんでしょう。どうして、大変なのに社長をやることにしたの?」と。
「来たぞ、これ!」と思いました。すかさず、「お前、ちゃんと座れ」と言って、向かい合いました。内心、汗ダラダラです(笑)。とっさに部屋を見渡して、目に見えるものを指さしながら語ったんですよ。
「いいか。電球は100年前にあったと思うか」「ないと思う」「任天堂のゲームはどうだ?」「それもないと思う」「じゃ、誰が作ったと思う?」「工場の人たち」「そうだけれども、誰が最初にこれを『作るぞ!』と決めたんだ? それが社長だ。今、世の中にあって便利なもの、生活が楽しくなるものはすべて、それを作ろうと決めた1人の社長がいたから生まれたんだ。最初に始めた社長がいたんだ。そうやって皆に喜ばれる人生っていいだろう」「うん」「それがパパのやっていることだ」
息子は「ふーん」と言っていましたが、明らかに顔つきが変わったから、ホッとしました。
こういう瞬間って、子育てする期間の中で数える程度しかやってこないチャンスだと思うんです。「なんで今の仕事をしているの?」と聞かれたときに、「こっちのほうが稼げるからだよ」だけじゃなくて、プラスアルファ、自分の思いを込めた理由を語れるかどうか。こういうチャンスって数少ないし、突然やってくるんですよ。
武田:「そのとき」に備えてシミュレーションをして、言葉を準備しておいたほうがよさそうですね。
南:そうそう。仕事に限らず、人生について語るチャンスっていくつかありますよね。例えば、娘が彼氏を連れてきたときとか……。
中村:それは時々考えますね。日本人の男性とは限らなくて、米国人や中国人、インド人の可能性もあるし。
南:同性パートナーである可能性だってありますよね。そのとき、自分は何を言えるだろうか? と考えてみるといいと思います。
経営と子育ては同じ、キーワードは「自立」
武田:8歳の息子さんに対して堂々と言い切れたとき、きっと南さんはいい顔していたんでしょうね。いざというときに、カッコいい親でいられるか。試されますね。では、このセッションの本題でもある「子育てと経営の関係」についても、皆さんに伺ってみたいと思います。田口さん、いかがですか?
田口:子育てと経営はつながっていますね。僕は社員と接するとき、自分の子どもと同じように関わっています。
武田:田口さんの会社の社員数はどれくらいですか。
田口:千数百人です。
武田:大家族ですね。
田口:リーダーの役割は社員の成長をサポートすること。一人ひとりに成長してもらって、去年より今年、今年より来年と給料を上げていくというのが、社長の使命だと思っています。
だから、時には厳しいことも言わなければいけない。そのときに、わが子に語りかけるような気持ちで、社員にも向き合えるかどうか。自分自身のチェックポイントはそこです。愛情があれば、どんなに厳しい口調でも傷つけようとはしない。
指導しているその場に、もし社員の親が同席していたと仮定して、「田口さん、うちの子をそんなにふうに叱ってくれてありがとう」と言っていただけるかどうか。
武田:すごくいい話ですね。過去にこのテーマのセッションに参加した経営者たちも「社員と子どもたちで、接し方はほとんど一緒で変わらない」と言う人が結構いました。
重松:僕も一緒です。
中村:一緒ですね。子育てと経営の共通点について、ブログに書いたこともあるくらいです。
南:完全に一緒ですね。子どもに対しても、社員に対しても、言っていることは同じ。「自立」。それぞれが自分らしく、ちゃんと自分の強みに気づいて、それを発揮して、どんなに大変な世の中であっても、たくましくしなやかに生きていける人間になってほしい。もっと言うなら、僕がやっている事業自体も個人のスキルを生かすためのサービスだから、まったく同じメッセージを発しているつもりです。
社員に対してよく言うのは、「強みだけを伸ばしたらいい。苦手なことはやらないでいいよ。自分が一番気持ちよくプロになれる仕事を見つけてほしい。苦手なことは他の人がやってくれるから」。日本人って、どうしても「苦手をつぶして標準化しましょう」という教育を受けているから、苦手を克服することばかり考えてしまう。
重松:もったいないですよね。
南:本当にもったいないです。苦手を埋めたところで、その先に幸せはないのに。「あれはできない、これもできない」と“苦手探し”は上手なのに、“得意探し”が下手なんです。でも、得意なことを自覚できてこそ、ようやく苦手なことを受け入れられるようにもなるし、周りと助け合えるようになる。チームワークの輪に入れる自分に成長できるんですよね。
僕は、これからの“個の時代”は“チームの時代”だと思っています。周りと連携するためには、まず個がしっかりと自立しないといけない。
武田:南さんにとって、家族、会社、事業は「自立」でつながっていて、三位一体となっているんですね。3つのうち、どれが出発点でしたか? 自立を最初に意識したのは何からだったのでしょうか。
南:どれが最初ということはなくて、強いて言うなら僕自身の生き方です。僕はずっと楽しく生きてきて、就職活動を始めたときに「自分はこんなに幸せだけれど、世の中にはそうではない人もたくさんいるから、その人たちを救える仕事をしよう」と決めたんですよ。
企業買収ファンドで働いたのも、企業再生によって救える人を増やしたかったから。僕は自分を超一流の人間とは思わないけれど、楽しく幸せに生きる点では自信はある。だから、それを生かせる仕事をしたいし、同じことを家族に対してもやっていきたい。そんなシンプルな考えです。
中村:僕も同じで、人はそれぞれ得意なことを伸ばしていくのが一番だと思っています。会社は得意なことが異なる多様な人たちの集合体。イメージとしては、社員が集まって、1人の大きな人間をつくるのが「法人」。それぞれ持ち寄る役割は違うほうがいい。きっと、南さんの考えと近いですよね。
仕事で大切にしている手法を子育てに応用しよう
武田:そうですね。まったく同じだと感じました。では、最後に皆さんから「私にとって子育てとは?」の一言をお願いします。
南:僕からいきましょう。日経ビジネスのインタビューでも答えたとおりですが、「自己満足」です。子どもをつくったのも親だし、子育てを楽しもうとしているのも親の自己満足。だから、子どもたちには「親のことなんか気にするな。好きに生きろ」と言いたいです。多少金がかかっても、重荷に感じる必要はない。それもこれも全部、親である俺自身が楽しいからやっているんだぞ、と。とにかく、好きなように生きてほしいです。
中村:僕は「実験」と書きました。先ほども申し上げたとおり、うちのプロダクトはほとんど娘を実験台にして開発されたものなので。また、娘と一緒に料理を作ってみたりと、子育てで発生する日常のすべてのことが研究であり、実験。試行錯誤を楽しんでいます。
田口:子育てとは、僕にとって「親育て」です。育てると言いながら、明らかに僕のほうが人間性を磨いてもらっているという実感が常にあるので。彼らの一挙手一投足を観察しながら、自分の言動を見直す機会は多いですね。経営者としてのリーダーシップを、子育てを通じて磨かせてもらっている。そんな気持ちです。
重松:僕はちょっと大きなことを書いてしまいましたが、「世の中づくり」です。田口さんがおっしゃったように、子育てを通じた気づきは本当に多くて、その気づきがそのまま事業のサービスに反映されたり、組織づくりに生かされたりしています。子育てで得たインプットを、事業を通じて世の中に還元していきたいといつも思っています。
武田:素晴らしい! ということで、最後の最後は、登壇者4人、そして『新しい子育て』著者の宮本恵理子さんが、会場の各テーブルに入ってディスカッションし、今日の学びを共有しましょう。どうぞ!
<20分ほどディスカッション>
武田:では、順に共有した学びを発表していただいて、終了といたします。重松さんのテーブルからお願いします。
重松:皆さんとお話しして、子育ての課題は家庭によってそれぞれ違い、だからこそシェアするのが面白いと感じました。今日ここにいらっしゃっている皆さんは、日ごろから「新しいものを生み出そう」というチャレンジ精神のある方ばかりだと思うのですが、子育てとなると「ねばならない」という既成概念に縛られてしまうのかもしれません。
普段のビジネスと同じ感覚で、より自由な発想で課題を解決していくことを恐れずにやっていけたら、子育てもより面白くなるし、世の中にとっても価値を出せるのではないだろうかと思いました。僕もそうありたいです。
田口:僕たちのテーブルでもいろんな話題が出て、「女性がキャリアを継続しながら、いつ子どもを産むといいのか」といったテーマでも議論しました。このセッションではあえて男性経営者を集めて議論していますが、ICCのようなビジネスサミットにもっと女性も参加して、一緒に話せるといいですよね。社員の半分を構成する女性が抱えているビッグイシューについて語り合える機会を創出する。これも日本全体の課題だと感じました。
中村:僕たちのテーブルでは、夫婦間の教育方針の衝突をどう解決したらいいのかという体験を出し合って、盛り上がりました。例えば、YouTubeの触れさせ方一つにしても、自分はあまり見せたくない番組でも、妻が「楽しそうだからいいじゃない」と言うこともあります。子どもが迷わないように方向を指し示すには、どんなコミュニケーションをとるのがいいのか。正解はないですが、いろんな考え方を出し合う機会をつくることが大事だと確認することができました。
宮本恵理子:こちらのテーブルには、0歳児を育てて毎日寝不足だという新米パパから、すでにお子さんが成人されたベテランパパまで、いろいろなステージの方がいて、「こんなときはこうやってみるといいですよ」といったアドバイスが飛び交っていました。ビジネスと一緒で、子育てのハードな時期を一緒に乗り越えたパートナーとは同志としての絆が深まるのだと思います。答えはすぐに導き出せなくても一生懸命に向き合うことの大切さを、改めて教えていただきました。
南:僕たちのテーブルでは、中村さんと同じで「夫婦間でどう子育ての方針をそろえていくか」という点を話しました。答えは明確で、経営と一緒だな、ということです。つまり、いつでも、「ビジョン」「ミッション」「バリュー」に立ち返ること。子どもをどう育てていきたいのか。一度しっかり夫婦で話しておけば、細かいことでぶつかったとしても、大きな道筋は迷わず進めるはず。ビジネスで大事にしている手法を、家庭にもどんどん持ち込んでいきましょう。まさに“子育て経営学”だよねということで、まとまりました。
武田:ありがとうございました。
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武田双雲氏 書道家
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この記事はシリーズ「僕らの子育て」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
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