小1の子どもが両親に900円の借金をして、家庭内でコーヒー屋さんを開く物語「小1起業家」は、今年5月にネットで公開されてから子育て世代に大きな反響を呼んだ。今回はその作者、佐藤ねじ氏に、ご自身の子育てについて話を聞く。佐藤氏は会社員時代からユニークな視点によるアート作品を発表。子どもが生まれてからは、子育てを題材にした「息子シリーズ」で、0歳児の1日のスケジュールを可視化した「0歳カレンダー」、子どもの工作や絵画に値付けをして売る「5歳児が値段を決める美術館」など、子どもの成長段階ごとの発想や表現を生かした作品を発表して人気を呼んでいる。“企画型”の親が子育てをするとどうなる?(後編は11月19日公開予定)

ブルーパドル代表/アートディレクター・プランナー<br /><span class="fontBold">佐藤ねじ(さとう・ねじ)氏</span><br />1982年愛知県生まれ。名古屋芸術大学デザイン科卒業後、上京し、セールスプロモーション会社に入社。その後、デザイン事務所に移り、デザイナーとして働きながら、「佐藤ねじ」の名前で作品発表を始める。2010年、面白法人カヤックに入社。2016年7月に独立し、ブルーパドルを設立。デジタルコンテンツの企画・デザイン・PRで幅広く活動。代表作に「ハイブリッド黒板アプリKocri」「貞子3D2 スマ4D」「しゃべる名刺」「Sound of TapBoard」など。文化庁メディア芸術祭・審査員推薦、グッドデザイン賞ベスト100など、受賞歴多数。著書に『超ノート術』(日経BP)がある。東京都在住。おもちゃ作家の妻、7歳の長男、0歳11カ月の次男と4人暮らし。(取材日/2019年7月1日、写真:竹井俊晴)
ブルーパドル代表/アートディレクター・プランナー
佐藤ねじ(さとう・ねじ)氏
1982年愛知県生まれ。名古屋芸術大学デザイン科卒業後、上京し、セールスプロモーション会社に入社。その後、デザイン事務所に移り、デザイナーとして働きながら、「佐藤ねじ」の名前で作品発表を始める。2010年、面白法人カヤックに入社。2016年7月に独立し、ブルーパドルを設立。デジタルコンテンツの企画・デザイン・PRで幅広く活動。代表作に「ハイブリッド黒板アプリKocri」「貞子3D2 スマ4D」「しゃべる名刺」「Sound of TapBoard」など。文化庁メディア芸術祭・審査員推薦、グッドデザイン賞ベスト100など、受賞歴多数。著書に『超ノート術』(日経BP)がある。東京都在住。おもちゃ作家の妻、7歳の長男、0歳11カ月の次男と4人暮らし。(取材日/2019年7月1日、写真:竹井俊晴)

佐藤さんは、お子さんが生まれてから、子育てを題材にした「息子シリーズ」を続々に発表しています。最近では、ご長男が両親に900円借金して家庭内でコーヒー屋さんを開く「小1起業家」がネット上で話題になりました。どうしてお子さんに「起業」させようと思ったのですか。

佐藤氏(以下、佐藤):昨年、小学1年生だった息子がポケモンカードゲームにハマっていて、「カードを増やしたい。月100円の小遣い以外でどうやって稼げるのか」と悩んでいたので、オフィスの会議室に呼んで「おこづかい講座」を開いたんです。

 お金の使い方には、「消費・投資・浪費」という3種類があること、「他人の困りごと」と「自分ができること」の掛け合わせによって、お金を稼ぐテーマが見つかることなど、ホワイトボードを使って教えました。それにも100円の“受講料”をもらいました。息子にとっては1カ月分の収入を使うので、思い切った投資だったと思います。その結果、「お父さんとお母さんをターゲットにして、コーヒー屋さんを開く」というアイデアが固まったという経緯です。

 さらに、コーヒー豆の仕入れのために、お年玉をためた1000円に加えて僕から900円の借金をしたので、赤字からのスタートになりました。駄菓子のサブメニューも加えて、コーヒー1杯200円のメニュー表やチケットも手作りし、ドリップコーヒーのいれ方も修業。毎日の売り上げを出納帳に記載して、ついに2カ月後には80円の黒字に転じ、家族以外の来客にもコーヒーを薦めて稼ぐように(笑)。3カ月後には1150円の利益を出しました。ここまでの経緯を動画も交えてデジタルコンテンツにして発表したのが、この作品でした。テレビ番組でも取り上げていただいて、予想以上の反響がありましたね。

 その後もコーヒー屋の営業は続いていて、今は3袋目を仕入れたところ。でも時々、コーヒーをいれるのを面倒臭がることもあり、開封から2週間を過ぎている。僕と妻は「味が落ちたら、同じ値段は払わないからね」と言っていて、初めて「売れ残りのリスク」に直面しています(笑)。面白いです。

 見てくださった方々から「いい教育法ですね」と言われることもあるのですが、僕には特別な教育論は何もなくて、ただ題材として面白いから作品にしたというだけなんです。

「息子シリーズ」を始めようと思った理由はなんだったのでしょうか?

佐藤:特に何かを意識して始めたわけではないのですが、僕はもともと会社員時代から“二足のわらじ”的に、自分で自由に作品をつくることが好きでした。明確なお題がある仕事とは違って、自分の作品にはそのときの自分にしかできない表現を突き詰めることができるから、純粋に楽しい。子どもが生まれてからは、日々成長して変化していく子どもという対象が、自然と作品になっていった感じです。純粋に、対象として面白いじゃないですか。

 ただ、よくある「かわいさ」を前面に出した表現とはちょっと違う見せ方での表現は意識しています。2歳のときに社会問題について話してもらった動画や、6歳児が大人の悩みに答えるラジオのシリーズも、結構気に入っています。

 あと、もう1つの動機としては、子どもと遊びながら作品づくりができるというのは、週末の過ごし方としてとても効率がいいんです。小学2年生になった長男と昨年生まれたばかりの次男を育てる生活の中では、なかなか制作時間が取れないので。

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