スタートアップ企業から大企業まで、経営者や経営幹部、各分野のリーダーたちが集まってビジネスコンテストやトークセッションなどを繰り広げる「Industry Co-Creation(ICC)サミット」。大きな影響力を持つこのイベントで、旬の起業家・経営者たちは何を語り合っているのか。

 日経ビジネスでは、2019年9月に京都で開催された「ICCサミット KYOTO 2019」を取材。同年2月に開催されたICCサミット FUKUOKA2019において、日経ビジネス電子版との共同企画として大好評だった「『子育て経営学』―私たちは子供をどう育てていくのか?」は今回、シーズン2が開催された。日経ビジネス電子版の連載「僕らの子育て」などとタッグを組んだ本セッションで、旬の経営者たちは、自身の子育てについて何を語ったのか。未来を予測しづらい中、わが子にどんな機会を与え、どんな才能や能力を伸ばそうとしているのか。今週から3回にわたって「『子育て経営学』―私たちは子供をどう育てていくのか? (シーズン2)」で語られた内容を紹介する。(構成/宮本恵理子)

トークセッションに登壇した5人。(右から)探究学習を柱とした教室「探究学舎」を運営するワイズポケット代表取締役の宝槻泰伸氏、WiL共同創業者CEOの伊佐山元氏、ジャパンタイムズ代表取締役会長の末松弥奈子氏、ウェルスナビ代表取締役CEOの柴山和久氏、モデレーターを務めたUBS証券マネージングディレクターの武田純人氏(取材日/2019年9月5日)
トークセッションに登壇した5人。(右から)探究学習を柱とした教室「探究学舎」を運営するワイズポケット代表取締役の宝槻泰伸氏、WiL共同創業者CEOの伊佐山元氏、ジャパンタイムズ代表取締役会長の末松弥奈子氏、ウェルスナビ代表取締役CEOの柴山和久氏、モデレーターを務めたUBS証券マネージングディレクターの武田純人氏(取材日/2019年9月5日)
本連載に登場した、気鋭のビジネスリーダーやプロフェッショナルなど10人の子育て論をまとめた『子育て経営学』
本連載に登場した、気鋭のビジネスリーダーやプロフェッショナルなど10人の子育て論をまとめた『子育て経営学』

武田氏(以下、武田):いよいよ始まりました! 気鋭の経営者が子育てについて議論する『子育て経営学』コラボセッション、シーズン2を開催します。私は本業がアナリストなので、仮説検証を大事にしています。今年2月のICCサミット FUKUOKA2019で大好評を得たシーズン1では、「子育てはメガトレンド」という結論を導き出しました。

 しかし、子育ては決して一過性の“トレンド”ではないのではないか。前回のセッションが終わってからの半年間、いろいろな方との対話を通じて、そう考えるようになりました。そこで今回は「子育ては終わらない」を仮説として置き、再び熱く議論を展開したいと思います。

 そこでまずは、4人の登壇者の「わが家の子育ての創意工夫」について、ひと言ずつお話ししていただきましょう。このセッションのためだけに、米シリコンバレーから飛んできてくださった伊佐山元さんから、お願いします。

伊佐山氏(以下、伊佐山):私のバックグラウンドから簡単に申し上げます。

 私は2001年からシリコンバレーに移住し、長女が2歳のときから米国で子育てをしています。その長女も20歳になり(編集部注:米スタンフォード大学に在学中)、下に男の子が3人。4人の子どもたちはみんな日本人の顔をしていますが、ずっと米国育ちなので、放っておくと“アメリカ人”になってしまいます。どの程度、日本人としてのアイデンティティーを残すのかといった点も含め、日々、悩みながら子育てをしています。

 「わが家の子育ての創意工夫」は3つ。1つ目は「みんな仲良く」。子どもが小さいときには「個」のスキルを磨くことに一生懸命になりがちですが、社会に出て、年齢を重ねて最終的に大事になるのは、「いかに人を動かせるか」ということです。家族を、チームメイトとしてまとめることができなければ、社会に出たって無理でしょう。ですから、きょうだい同士で宿題を手伝わせたり、食後の皿洗いを協力させたり、家事を分担させたりと、つい親が口出ししたくなるところを、できるだけ子どもたちに任せるようにしています。自分の宿題も大事だけれど、それ以上に、宿題に困っている人を手伝うことのほうが大事、と伝えています。

 2つ目は、「みんなすごい」。つまり「すげえ!」とほめる。子どもは素直にその言葉を受け取るから、「オレってすごいかも」というスイッチが入って自信が生まれます。好きなことが増えるわけです。

 今、書店に並んでいる子育て関連の本には、そろって「好きなことを見つけなさい」「得意なことで稼ごう」と書かれています。でも「自分にとって何が好きで、得意なことか?」と迷う子どもも多いはずです。だから、小さいうちから「すごいね。今度はこういうのをやってみたら?」と興味関心を深掘りする。いわゆる「Yes,and」の発想で、何かに夢中になる練習をさせたいと思っています。夢中になる方法さえマスターしたら、大人になっても困らないはずなので。

 3つ目は、「みんな笑顔」。これは1つ目の「みんな仲良く」にも通じるのですが、利他の精神を大事にしてほしいという考えです。シリコンバレーで生活していると、たくさんのミリオネアやビリオネアに出会います。しかし、彼らの中には不幸な人もたくさんいる。不幸である理由を考えると、「周りの人を笑顔にできていない」ことに尽きるんです。自分の利益だけを求めても、人間は幸せにはなれません。「他人を助けて、喜ばせることで、自分もハッピーになれる」。この姿勢を基本にしてもらいたい。

 特に利他の精神を強調する背景には、別の危機感もあります。アメリカでも日本でも、「これからは個人の時代になる」といわれています。YouTuberなど、「好きなことを仕事にする成功例」も増えている。これが進むと、きっと世界中で「国民総ナルシスト現象」が起こります。つまり、「目立たないとしんどい世界」になるんです。

 きっと、ついていけない人もたくさん生まれるでしょう。仮にうまくその流れに乗って、成功したとしても、人はきっと「ウケるためならリスキーなこともやる」と考え始める。「目立てばいい」という社会では人を助けたり、人のために尽くしたりすることができない人間が増えるはずです。すると、社会は成り立たなくなる。だから「周りも自分もみんな笑顔になれる人になろう」と、子どもたちにはしつこく伝えていきたいですね。

武田:伊佐山家の子育て方針を聞いて、宝槻さんはどう感じましたか。

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