「すげえ!」と繰り返していたら、自然にスゴい子どもが育った
書道家・武田双雲が実践するスーパーポジティブ子育て(前編)
「オトコが育児に参加するのが当たり前」の時代に変わりつつある。旬の経営者や学者、プロフェッショナルたちも、自らの育児方針や育休取得についてパブリックに言及することが増えてきた。優秀なリーダーたちは、我が子にどんな教育を与えようとしているのか。また自身はどう育てられたのか。そしてなぜ、育児について語り始めたのか。
連載35回目に登場するのは、書道家の武田双雲氏。2019年6月「第38回ベスト・ファーザー賞」も受賞した武田氏。3人の子どもの父として、スーパーポジティブな子育てを実践している。武田氏は、日々成長する子どもたちに「すげえ!」と感動し、武田氏自身も毎日を幸せに機嫌よく生きていると明かす。その姿勢は子どもたちにどんな影響を与えているのだろうか、話を聞いた。
書道家 武田双雲(たけだ・そううん)氏1975年熊本県生まれ。3歳から、書家である母・武田双葉に師事。東京理科大学理工学部卒業、NTTに入社。3年勤務した後、書の道へ転身。神奈川県湘南で書道教室「ふたばの森」を主宰するかたわら、書道の概念を新たにする個展やパフォーマンス書道など、斬新な作品・表現を発表し続ける。映画「春の雪」「北の零年」、NHK大河ドラマ「天地人」の題字、世界遺産「平泉」などのロゴを多く手掛け、書を依頼する経営者のファンも多い。伊勢神宮、興正寺などにも献書。現在は、色鮮やかな画材によるアート表現も精力的に行う。『上機嫌のすすめ』(平凡社)、『ポジティブの教科書』(主婦の友社)など著書多数。2020年初めに大規模展覧会を予定。神奈川県在住。専業主婦の妻、13歳の長男、11歳の長女、4歳の次男と5人暮らし。(取材日/2019年7月9日、撮影/鈴木愛子、ほかも同じ)
本連載に登場した、気鋭のビジネスリーダーやプロフェッショナルなど10人の子育て論をまとめた『子育て経営学』
武田さんは、2019年6月に発表された「第38回ベスト・ファーザー賞」を受賞されました(同じく本連載の初回に登場した早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授も受賞、記事は「親の言うことを聞く子どもになってほしくない」「育児とは、答えが見えない永遠の学習」)。おめでとうございます。
武田氏(以下、武田):ビックリしました。授賞式にいただいたトロフィーは、父親が子どもを肩車している像なんですが、毎日のように僕と子どもがやってきたことで、「こっそり見られていたのかな」と思いました(笑)。
受賞は光栄でうれしいんですけれど、正直ピンときませんでした。
なぜなら僕自身はまったく「子育て」している感覚がないから。自分が育てているなんておこがましい、と思うくらい、すばらしいすてきな子たちで、いつも「すげえ!」「うちに来てくれてありがとう!」とひたすら感動しているだけです。
子どもたちはリスペクトできる親友みたいな存在で、僕自身が「父親」という感覚はあまりないかもしれませんね。
中学生から幼稚園児まで、3人のお子さんがいらっしゃいますね。
武田:中2の長男は社会派リーダータイプで、小学校では生徒会長もやっていました。幼稚園から高校までの私立の一貫校に通っていて、中学に入ってからは、世界の社会問題に関心が強くなったようで児童労働問題を問いかけるための団体を立ち上げて、フェアトレードのチョコレートを販売する計画を立てたりしています。
この間、「パパ、ちょっと東京に行ってくるから、電車代くれない?」と言うから、「何をしに行くの?」と聞いたら、「社長と対談してくる」って(笑)。聞けば銀座の老舗「サヱグサ」の三枝亮社長にお会いしてきたみたいで。あとでその様子がネットニュースになっていたから、さらに驚きました。
子どもは親の想像をどんどん超えていくなぁと、まぶしく見ていました。多分、彼は将来、世界を変えるリーダーになるんだろうと思います。
決してガリ勉タイプではないのに、勉強もよくできて、サラッとすごい成績を取ってくる。仲が良くて、よく一緒に遊ぶんですが、最近は僕が「ドライブ行こうよ~」と誘っても、「ごめん。勉強した後で学校改革のオンライン会議やるから」と断ってきます。あれ、なんか逆じゃないか?って不思議です(笑)。
長男と2人で、米国大陸を縦断・横断
武田:長男とは2年前とその前年に、米国大陸を縦断・横断する旅を一緒にしたんです。この時のホテルの手配やクルマのナビゲーションも、全部やってくれました。
現地でオーガニックカフェをやってみようと盛り上がっていたら、物件の情報をさっと集めて申し込みまでしてくれて。そういうのをサラッとやっちゃう、本当にすごいヤツなんです。
なぜかピアノも得意で、米国でエルトン・ジョンのプロデューサーの家にお邪魔した時、みんなの手が止まるほどビックリする演奏をして、ほめられていました。僕は音楽にうとくて、当時はエルトン・ジョンのこともよく知らなかったんですけどね(笑)。
とても優秀で才能豊かに育っていらっしゃるんですね。「勉強しなさい」「これをやっておきなさい」と促したことはないのでしょうか。
武田:ありません。僕はただただ、自分の人生を楽しむことに夢中で、世界がポジティブになるための発信を続けてきただけなので。
僕のそういう姿や、僕が書く文章や表現は、ずっと見てきたとは思いますが、特別に「これをしなさい」「あれをしなさい」と言ってきたことは一切ないんです。
僕が子どもたちに言ってきたことは「すげえ!」だけです。いや、本心から感動するので、自然とそういった言葉が出ちゃうだけなんですけれど。僕の親父も、僕に対してそういった姿勢でした。
基本的に、子どもたちのほうが新時代を生きる、進化した生き物なんですね。だから、親が偉そうにする意味がない。むしろ親はブレーキにしかなりません。できるだけ、邪魔しないようにしたいと思っています。
では、叱ることもあまりないのですね。
武田:「早く寝たほうがいいんじゃない?」くらいは言いますけれど、9割方は感動、感謝、信頼を伝えるコミュニケーションですね。
小5の娘はドラマが大好きで、いつも歌っています。すごくひょうきんで、しょっちゅう変顔合戦しています。僕にとって最高のお笑い芸人で、エンターテイナーですね。
4歳の次男は、3人目だからもう何をやってもかわいい。妻もメロメロで、食事中にスプーンを投げても「かわいいね~」しか言わないです。9歳差の長男の時は、「何やってんのー!」って怒っていたのに、別人になっています(笑)。
ほら、見てください。これ、次男がただ「スパゲティ」って一生懸命言おうとしているだけの動画なんですが、かわいすぎて卒倒しそうです。これが「3人目のゆとり」というものなんでしょうね。
この「愛しすぎる!」という感情の爆発が、ここ数年、僕が熱中しているアート活動の根源にあることは間違いありません。あ、長男と長女が小さい頃に「お店屋さんごっこ」をしている動画も出てきました。何度でも見ちゃいます。最高です。
一緒に過ごせるだけで究極の幸せ
子育てで得られる感動が、武田さんの創作の刺激にもなっていることが伝わってきます。
武田:僕にとっては、今ここで彼らと一緒に過ごせているだけで、宇宙レベルの究極の幸せなんです。このとてつもない幸福に気づくだけで、自分が開いていく。
すると、すべての瞬間が「アートとして表現したい」と欲求をかきたてる瞬間に変わっていくんです。子育てにはもちろん大変なことだってあるかもしれませんが、僕は期待をかけないから、すごくラクなんです。
子どもたちとの出会いを通じて、僕は開かされた。これは芸術に関わる職業だけでなくて、すべての人に通じることじゃないかな。
多くの親はわが子につい期待をかけて、「思った通りにいかない」と悩むものです。武田さんのような感覚は、どうやったら身につけられるのでしょうか。
武田:一つは「時間軸をなくす」姿勢かな。期待というのは、将来を案じる気持ちから生じるものですよね。今は情報があふれる時代だから、親たちは子どものことを考えるほど、「この大学に行ってほしい」「こういう子になってほしい」と、将来の「なってほしい」イメージから逆算して不安や焦りを感じてしまう。
その結果、「今この瞬間・瞬間」に起きている感動のシーンを見逃してしまう。本当は日々積み重ねられるはずの愛の交換のチャンスを失うのは、もったいないですよね。
ものごとに感動する感度を高めるには、自分自身が機嫌のいい状態を保っていくことが大事です。だから互いに機嫌よく接することができる過ごし方を探すといいですよね。
僕は自宅に隣接した教室が活動拠点なので、一般的な父親よりも多くの時間を子どもたちと過ごしていますし、それが自分にとっても心地いいんです。けれど、「接する時間が長ければいい」というわけでもないと思います。もし「たまにしか会わないほうが、互いに機嫌よく過ごせるな」と感じるなら、顔を合わせる頻度を少なくしたほうが、きっとうまくいく。
子育てに限らず、夫婦関係や職場の人間関係もそうじゃないですか。
好奇心で乗り越えた妻の「産後クライシス」
ご夫婦でケンカになることはありますか。
武田:僕が怒らないので、ケンカにはならないですね。「え、なんで怒るの?」と思った瞬間、好奇心が発動して研究対象になるので。
僕はもともと理系で、パターン分析も好きだから、女性の感情がホルモンにどう影響されるのかといった本を読んで、研究しました。
書道教室の生徒さんには子育て中の女性も多いので、いろんな悩みを聞くんです。すごくおとなしく見える女性が、「実は私、親にも怒られたことがなくて、今まで人に対して怒ったこともなかったのに、お母さんになった途端、毎日自分の中の化け物が出てきて、子どもを怒鳴っちゃうんです。それが怖くて、怖くて……」と打ち明けてきたりするんです。
僕の妻も、結婚前は「なんでも大智くん(武田氏の本名)に任せるね」という、男性の一歩後ろを歩くタイプだったのに、母親になった途端、僕の言うことを全否定するようになりました(笑)。
この変化についていけなくて戸惑う男は多いと思います。いわゆる「産後クライシス」に陥らないためにも、僕みたいに、好奇心を発動して研究対象にするのがオススメです。
子育てで起きるすべての事象が、武田さんの好奇心を刺激しているのですね。
武田:本能、思考、文化、時代背景、収入、地域性……。子育ての幸福感を決める変数はたくさんあって、法則性があるようでないから面白いですよね。
例えば、年収1億円の家庭なら夫婦げんかが起きないかというとそうではなくて、きっと年収300万円の家庭と同じようにけんかをしている。いろんな人の話を聞きながら、子育ての違いや共通点を研究するのも面白いです。
(インタビュー後編は2019年9月10日公開予定)
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