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 「オトコが育児に参加するのが当たり前」の時代に変わりつつある。旬の経営者や学者、プロフェッショナルたちも、自らの育児方針や育休取得についてパブリックに言及することが増えてきた。優秀なリーダーたちは、我が子にどんな教育を与えようとしているのか。また自身はどう育てられたのか。そしてなぜ、育児について語り始めたのか。

 連載31回目に登場するのは、元陸上選手の為末大氏。世界陸上選手権や五輪に出場し、2019年7月時点でも男子400mハードル日本記録を保持する為末氏。2012年に現役を引退した後も、スポーツやアスリートらを通じた社会課題の解決などに取り組んでいる。プライベートでは現在4歳児の父として、日常的に子育てに携わっているという。第一線で活躍したアスリートでもある為末氏は、自身の息子をどのように育てているのか。インタビューの前編で為末氏は子どもの自己肯定感を育てることが大切と語った(詳細は「為末大氏が実践、子どもの言語能力を育てる親の『あいづち力』」)。インタビュー中編では「子どもにどんなスポーツを習わせるべきか」という素朴な親の疑問に、為末氏が独自の観点から提案(詳細は「野球ではフォロワーシップが、ラグビーはリーダーシップが育つ」)。後編では為末氏が陸上競技の経験から導き出したセルフコーチングの方法を、子育てにも応用しているという話を聞いた。どういうことなのだろうか。

Deportare Partners代表、元陸上選手 為末大(ためすえ・だい)氏
1978年広島県生まれ。幼少期より陸上競技で頭角を現し、法政大学卒業後、大阪ガスを経て、2003年にプロ転向。2001年、世界陸上選手権エドモントン大会において、男子400mハードルで日本人初の銅メダルを獲得。2005年の同ヘルシンキ大会でも銅メダル獲得し、2019年7月現在、男子400mハードル日本記録を保持する。オリンピックには、2000年シドニー、2004年アテネ、2008年北京と3大会連続出場を果たす。2012年に引退を表明し現在は、スポーツとテクノロジーを掛け合わせた課題解決プロジェクトを行うDeportare Partnersの代表のほか、アスリートの社会貢献を支援する一般社団法人アスリートソサエティの代表理事、新豊洲Brilliaランニングスタジアム館長、ブータン王国オリンピック委員会スポーツ親善大使なども務める。主な著書に、『走る哲学』(扶桑社)、『限界の正体』(SBクリエイティブ)など。東京都在住。専業主婦の妻、4歳の長男と3人暮らし。(取材日/2019年6月24日、撮影/鈴木愛子、ほかも同じ)

為末さんが人生の中で、スポーツを通じて獲得したもので、一番大きかったものは何でしょう。

本連載に登場した、気鋭のビジネスリーダーやプロフェッショナルなど10人の子育て論をまとめた『子育て経営学』

為末氏(以下、為末):僕の場合、自問自答を繰り返す陸上競技をやってきたので、結果として「自分をどう扱うか」ということを学習できたことは大きかったと思います。

 目標を達成するには努力が必要で、欲望を我慢しないといけません。自分がどういうときに我慢ができて、どういうときには我慢ができなくなるのか。その傾向を分析し、自分をマネージする方法を探っていく。

 すると、どんどんと自分を客観視できるようになって、メンタルをコントロールする方法を身に付けることもできました。

 例えば緊張したとき、身体的なアプローチから心拍を下げたりすることもできます。興奮しそうになる自分に誰よりも早く気づいたり、体感的に「今日はもう寝たほうがいい」と判断したり。

 僕はそれを、セルフコーチングと言っていますが、自分自身をコーチングできるスキルは、陸上競技を通じて身に付けられたと思っています。

 客観的に自分を見つめる力を持ちながらも、一方で「バカになるときには、バカになる」ことが、本番での爆発的な力を発揮するには必要です。冷静な分析眼が求められるのだけれど、ある一瞬の意思決定で成果が決まる、トレーダーのような職種にも通じるかもしれません。