息子に問われた「どうして1番になれなかったの?」

普段の親子の会話を楽しんでいる様子が目に浮かびます。ところで息子さんは、為末さんがメダリストであることを知っているんでしょうか。
為末:僕から言ったことはないのですが、周りから言われることがあるようで、最近になって「トト(父)は足が速いようだ」と気づいてきたみたいです(笑)。いろんな場所に連れていったときの、周りの反応から感じとっているのでしょうね。
ただこの間、香港に一緒に行った時は、日本のように街中で認識されるわけではないので、「トトは香港では有名じゃないね」と言っていました(笑)。
時々、面白いことをズバリ聞いてきたりするんですよ。「どうして1番になれなかったの?」って(笑)。
核心をつく質問ですね。なんと答えたのですか。
為末:「トトもずっとそれを考えてきたんだけどさ」と話しました。あまり深く考えて答えたわけではなんだけれど、「1番になれた人がすごく速かったんだよ。でももしかしたら、トトがもっと強い気持ちで『速くなりたい』と思っていたら1番になれたのかもしれないね」とその時は言ったかな。こういう会話を息子とできるのは、自分でも面白いですね。
息子さんには今、どんな運動経験をさせていますか。
為末:いろんな動きの経験をさせています。発達理論で有名な「スキャモンの成長曲線」によると、運動能力を伸ばすのは12歳くらいまでが最適だと言われていますが、幼少期に大事だと言われているのが「コーディネーション」です。つまり体全体の動きのつながりです。
運動神経のいい人って、ぎこちなさがなくて、全体が滑らかに自然と動いている感じがしませんか。
子どものスポーツを上達させようとする親がやってしまいがちな間違いは、ある一つの理想の「型」を覚え込ませようとすることです。
僕も「正しい走り方の型を教えてください」とリクエストされることが多いのですが、たった一つの動きを習得することは、かえって良くないですよと伝えています。
子どもは頭が大きくて、手が長くて胴体が細く、身体的に未発達で、アンバランスな状態です。ですから、その段階で速く走れる「型」を習得したとしても、その後で体が育っていくと、当初の「型」ではかえってギクシャクしてしまう。つまり10歳で最適化した動きは、15歳では足かせになるリスクがあるんです。
だから、小さいうちは「型」を覚えることにこだわらず、多少ぐねぐねしてもいいから、いろんな動きを体に覚え込ませて、伸び伸びと体を動かすこと。それを楽しむくらいがちょうどいいんです。
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