社員も子どもも、自分の人生を自力で歩む自主性を育てる
ピクスタの古俣社長が変えた子育てしやすい働き方(後編)
「オトコが育児に参加するのが当たり前」の時代に変わりつつある。旬の経営者や学者、プロフェッショナルたちも、自らの育児方針や育休取得についてパブリックに言及することが増えてきた。優秀なリーダーたちは、我が子にどんな教育を与えようとしているのか。また自身はどう育てられたのか。そしてなぜ、育児について語り始めたのか。
連載30回目に登場するのは、画像・動画・音楽の素材サイト「PIXTA」、出張撮影プラットフォーム「fotowa」、スマートフォンアプリの写真販売サイト「snapmart」などを展開するピクスタ社長の古俣大介氏。
現在は、3人の子ども(9歳の長男、7歳の次男、1歳の長女)がいるが、長女誕生の前には妻が妊娠高血圧症で入院。1カ月ほど、2人の息子を1人で世話したという。この間、事業にほとんど影響がなかったという。具体的に働き方をどのように変えれば、子育てに関わりながら社長業を務められるのか、話を聞いた。今回はその後編。
ピクスタ代表取締役社長 古俣大介(こまた・だいすけ)氏
1976年埼玉県生まれ。多摩大学在学中にコーヒー豆のインターネット販売、女性向け古着販売のサイト運営を開始。大学4年の時に、創業間もないガイアックスでインターンとして勤務。大学卒業後、正社員として同社に入り、営業マネジャーに。在職中、2つの新規事業を立ち上げ、2000年に子会社の取締役に就任。2002年、自身の会社として万来を設立し、飲食店向け販促デザイン事業、美容健康グッズのネット販売事業を展開し、年商1億円に。2005年、オンボード(現ピクスタ)を設立し、現職。画像・動画・音楽の素材サイト「PIXTA」、出張撮影プラットフォーム「fotowa」、スマートフォンアプリを使った写真売買サイト「snapmart」などを展開。シンガポール、台湾、ベトナム、タイ、韓国にも拠点を持つ。東京都在住。専業主婦の妻、9歳の長男、7歳の次男、1歳の長女と5人暮らし。(取材日/2019年6月7日、撮影/鈴木愛子、ほかも同じ)
インタビューの前編で古俣さんは、3人目のお子さんが生まれたことをきっかけに働き方を大きく変えたとおっしゃいました。また奥さまにも積極的に「外の手」を活用しようと勧めている、と(詳細は「妻入院で突然の育児ワンオペ!働き方が根底から変わった」)。それによってご家庭の雰囲気に変化はありましたか。
本連載に登場した、気鋭のビジネスリーダーやプロフェッショナルなど10人の子育て論をまとめた『子育て経営学』
古俣:妻とのケンカはかなり減りました。以前はどうしても時間の使い方で言い合いになっていましたから。
1カ月のワンオペ期間を経験したことで、僕も大体の家事をこなせるようになったので、今では妻を「ママ飲み会」に送り出せるほどになりました。息抜きは大事です。
あと、早く帰る生活に変えてから、子どもたちのことがより把握できるようになったと思います。一緒に食事しながら、その日に学校であった出来事を聞いたり、宿題を見ながら得意・不得意に気づいたりする中で、今まで全然見えていなかった子どもたちの特性が理解できるようになりましたね。
もちろん妻から話は聞いてはいましたが、直接触れるのではやはり解像度が違いますね。
今おっしゃった「宿題を見る」という子育てタスクは、小学生のお子さんを持つみなさんにとって、悩みの1つです。お子さんは宿題を進んでやるタイプですか。
古俣:あまり進んでやるほうではないですね(笑)。妻は結構、厳しく「やれと言ったらやりなさい!」と叱るタイプなので、僕は反対に寄り添う役割で。
子どもに宿題をどう取り組ませるかは、部下マネジメントにも似ていますよね。答えを直接言うのか、まずは自分で考えさせるのか、あえて間違わせるのか。
僕の場合は、時間をかけて問いかけていくことが多いですね。「問題はなんて書いてある?」から始まって、「どう解いたらいいと思う?」「どの部分を見たらいいと思う?」というふうに。考えるプロセスを問いかけながら、段階的に理解させていく。
親のほうに根気が必要になりますね。
古俣:根気が必要です。本人が宿題に向かう気持ちになっていることがとても大事なので、まず「いつやる?」というのを本人に決めさせます。自分で決めたことなら、自然とやろうとしますから。
「親以外の大人」の存在が与えてくれるもの
土日の過ごし方はいかがですか。
古俣:息子2人がサッカーチームに入っているので、一緒に練習や試合に出かけることが多いです。僕もサッカー観戦が趣味なので苦にならず、審判資格も取って、試合の当番に入っています。
少年スポーツの指導に関して、感じることはありますか。
古俣:見ているとすごく面白いですね。まさに経営やマネジメントと同じだなと感じることは多いです。
うちの場合は、長男がすごくいいコーチに恵まれて、そのコーチとは僕もよく話すんです。サッカーが大好きだけど、決して身体能力が高いほうではない長男に、分かりやすく練習法を教えてメキメキ上達させてくれたことで、彼は今すごくサッカーにのめり込んでいます。
「サッカーは一度試合が始まったら、自分で状況判断して自分で動いていかないといけない。普段の生活から自主性を持って行動しなさい」という指導方針で、日常の生活習慣も記録する「サッカーノート」をつけて添削してくれてたりします。
親以外の大人から自立を促してもらえるのはいいことだなと感じています。
もともとスポーツを始めてほしいという考えはあったのでしょうか。
古俣:僕も小中学校時代にバスケットボールをやっていて、スポーツはいろいろな意味でいいという実感があります。種目によらず、スポーツをやると、上達には努力を伴うことや、目標を決めて反復練習する重要性を学べます。それがチームスポーツであると、勝利は自分だけでは成し得ないことも。
真面目に練習する子もいれば、すぐに不満を口にする子、全然練習をしないのに器用な子、いろんなタイプの仲間がいます。理不尽さも含めて、「どうやったらこのチームがまとまって力を発揮できるのか」と考えていくことは、勉強だけでは獲得できない大きな学びですよね。
加えて、バスケやサッカーは試合の中で、どこで誰がどういう動きをしているか感じ取る視野が広がるとも言われていますし。
いろいろと学べることはありますが、スポーツを通じて一番感じ取ってほしいのは、「努力が成果に比例する経験」です。その実体験は一生モノになると思います。
自主性を持って取り組み、没頭する
古俣さんが子育てで一番大事にしていきたいこと、伝えたいことはそれですか。
古俣:自主性を持って取り組むこと、それに没頭すること。
自分でやろうとしなければ、なかなか身にならないし、そうでなければムダな時間を過ごしてしまうと思います。僕自身がそうやって生きてきたから、成功体験として子どもたちにもそうあってほしいと考えるのでしょうね。
僕の両親は自営業で、父は雑貨や健康グッズを催事コーナーで、期間限定で販売する催事業者という商売を、母は叔母と一緒に埼玉県内にリサイクルショップを数店舗経営していました。家の中はいつも商いの活気があって、僕ら子どもたちも小さい頃からお店に立ったり、仕入れた商品を運んだり、よく手伝っていたんです。
自分でビジネスをデザインしながら働く両親はいつも楽しそうでしたし、うまくいったときはおいしいものを食べに行けたし、いろんなことができた。そういう姿をずっと間近で見てきたので、自然と僕も「会社に就職するよりも、自分でビジネスを立ち上げたい」という気持ちがわくようになりましたね。
大学在学中にちょうどインターネットの波が一気に来始めたこともあって、いくつかの事業を立ち上げました。
ベンチャーに就職したり、起業したりすることについて、両親は一切反対せず、むしろ「やりたいことをやったらいい」という放任主義。自分たちも手いっぱいで構っていられないという理由もあったと思いますが、進路について相談したときにはいつも「いいんじゃない」と肯定してくれたのは、すごくよかったですね。
愛情をかけてもらいながら、自由意思に任せてもらったことで、僕たち兄弟はそれぞれに、「自分の人生を、自分で思った通りに歩み進んだ」という感覚が強いんです。
結果、失敗も含めて自分で決めたことと受け止められるので、誰かのせいにすることもない。両親や兄弟と今でもすごく仲が良いのは、自主性を重んじる家庭だったからだと思っています。
教育について、どういう学校に進んでもらいたいといった方針はありますか。
古俣:息子たちは、近くの公立小に通わせています。妻は私立中出身でいい思い出があるらしく、僕も私立の環境がいいなと思ったこともあったので、中学受験をしてもいいんじゃないかなとは思っています。
ただ、それも本人の意思次第なので、折を見て説明して、本人が乗り気にならなければ無理に中学受験をさせる必要はありません。今は勉強そっちのけでサッカーに夢中になっているし、何かに没頭する経験をとことんさせるほうが大事だと思っているので。
ゆくゆくは海外留学の経験はさせたいなと思っていますね。これは僕自身が「やっておけばよかった」と反省していることでもあります。苦手意識を持たない程度には語学力を身につけたほうが、大人になってからの可能性は広がりますよね。これもタイミングを見て提案してみようと思います。
オフィスにいなくても回る仕組みをつくろう
最近、「子育てしたくても、上司の無理解や会社の風土に阻まれた」という男性たちの訴えが度々報道されています。社会全体でもっと男性が子育てに自然に向き合えるようにするために、どんなことが必要だと考えますか。
古俣:経営側ができることとして、まずオススメしたいのはコミュニケーション手段の改革です。
対面の会議や、押印が必要な書類や、付箋メモでの伝達といった、“場所に縛られるコミュニケーション”をできるだけオンラインに切り替えていくだけで、働く場所と時間の自由度はかなり高まるはずです。
当社の場合は、もともとインターネット企業であるという利もありますが、それでも時期に応じて見直しを重ねて、最初はメーリングリスト、その後にYahoo!メッセンジャー、今はチャットというふうに、より効率的な方法へ切り替えていきました。
同時に、上司部下間の振り返りの機会といった、重点的にやるべきコミュニケーションや評価制度についてもルールを整えていき、「会社にずっといなくても、チームの仕事が回る仕組み」をつくってきました。現場を任せられるリーダーがここ数年で育ってきたのも大きいです。
すると、子育てで一時的に出社がままならない時期があっても、負い目を感じず、普段に近いペースで仕事ができる。実際、社長である僕自身が妻の入院を機に1カ月リモートでやっていた期間、それに気づいていた社員はほとんどいないと思います。
男性社員が育休を取ることに対して、経営者としてどう思いますか。
古俣:どんどん取ったほうがいいと思います。それも数日ではなく、2週間や1カ月単位で。もちろん、その必要度合いは家族の事情によって違いますから、押し付けはできませんが。
でも実際にやってみると、自分の働き方の見直しにもなるし、会社としても反対する理由がありません。前提として、先ほど説明した環境づくりもセットになるので、経営側の努力も必要ですね。
最後に、古俣さんにとって「子育て」とは。
古俣:「自主性育て」ですね。やりたいことを自分で決めて、自分でやる。考えてみれば、これは会社のマネジメントでやってきたこととも一致しています。社員に対しても、目標設定は全部自分で決めてもらい、どう仕事を進めていくかも自主性に任せています。
僕がそうであったように、子どもたちにも自分の人生を自分の力で歩む楽しみを味わってほしいし、その過程の中で没頭できる何かを見つけてほしいと思います。
■子育てとは
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