「オトコが育児に参加するのが当たり前」の時代に変わりつつある。旬の経営者や学者、プロフェッショナルたちも、自らの育児方針や育休取得についてパブリックに言及することが増えてきた。優秀なリーダーたちは、我が子にどんな教育を与えようとしているのか。また自身はどう育てられたのか。そしてなぜ、育児について語り始めたのか。

 4月9日から6週にわたって紹介しているのは、2018年秋に開催したイベントの様子だ。

 本連載を1冊にまとめた『子育て経営学』の発売を記念して、本書にも登場するWiL共同創業者CEO(最高経営責任者)の伊佐山元氏と、NPO法人クロスフィールズ代表理事の小沼大地氏が登壇。本連載の著者であるノンフィクションライターの宮本恵理子氏がファシリテーターとなって、実際に2人の子育てについて話を聞いた。

 今回は、「子育て経営学」イベントリポートの5回目。これまで数多くのベンチャーを支援してきた伊佐山氏が、成功する起業家たちに共通する子ども時代の特徴について明かしてくれた。伊佐山氏は「小さい頃にムダなことや役に立たないことをいっぱいやっている人の方が絶対にいい」と語った。なぜなのか。

本連載に登場した、気鋭のビジネスリーダーやプロフェッショナルなど10人の子育て論をまとめた『子育て経営学』
本連載に登場した、気鋭のビジネスリーダーやプロフェッショナルなど10人の子育て論をまとめた『子育て経営学』

小沼氏:伊佐山さんには、人生において「何が成功なのか」ということについてお伺いしたいなと思っていました。先ほどの伊佐山さんのお話だと(詳細は「子育てとベンチャー育成、実は似ていた!」)、例えば東京大学に行くことが成功ではなく、仮に東大に行けなくても、その後も勉強し続けることの方が、その後の人生にはプラスになる、ということですよね。

伊佐山氏:そうですね。ベンチャーにとっての成功は分かりやすいですよね。ビジネスとして回らなければ失敗ですから。もちろんNPO(民間非営利組織)は違いますよ。ただベンチャーの場合、もうけが発生して、それで社員を雇って、事業を大きくして、人がよろこばなかったら、どんなにきれいごとを言ってもダメなんです。「オレはすごいことをやっているんだ」と言ったって、それが理解されなかったら、それは失格です。

 一方で、子育ては成功がありませんよね。頭がいいからすごいわけでもないし、お金を稼ぐだけが人生でもありません。社会に役に立って、生きていて楽しいと思えることを見つけられることが、幸せなのだと思います。

小沼氏:伊佐山さんの目から見て、ベンチャーで成功する前の卵の起業家たちを見ていて、「成功するな」と思う人と、「ダメだな」と感じる人の間には、どういう違いがあるのでしょうか。

 それを子育てに引き付けて「子ども時代にこんな経験をした人は成功する」という法則のようなものはありますか。

伊佐山氏:それだけで大学の授業ができるくらいたくさんありますよ(笑)。ただ、その中でも僕が特にこだわっているのは、小さい頃にムダなことをやっている人はいいということです。ムダなことや、役に立たないことをいっぱいやっている人の方が、絶対にいい。

 親としては、自分の子どもには、勉強でもスポーツでも活躍してほしいから、役に立つことを習わせようとしますよね。けれど、これはみんなやっているわけです。みんなやっているということは、そこでは差が付きません。

 ほかの子どもたちが全然やっていないこと……例えば、生徒会でゴミ掃除をするとか、ほかの人がやりたがらないようなこととか、そういう寄り道をするのが好きな子は、必ずいますよね。

 内的な動機は何でもいいのだけれど、そういうことをやっている時に、親が「塾へ行ってこい」と口出しするのではなくて、むしろ、どんどんとムダなことをやらせていった方がいいと思います。

 例えばほかの子どもが「ナルト」や「ワンピース」にはまっているのに、すごくディープなアニメにはまっている子が、たまにいますよね。それはすごくいいスキルだと思います。普通の子はそうはなれませんから。

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