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起業家育成でも必要な「絶対的な安心ゾーン」

小沼氏:その育てるというのは、何年後くらいのイメージなのですか。

伊佐山氏:平均して7~8年くらいですね。幼稚園児から小学校を卒業するくらいの時間を使ってきたことになります。そう考えると、やはりベンチャー起業家を支援することは子育てと似ていて、学年によって、やらなければいけないことは違ってきます。そして子どもと同じように、小さい頃はできないけれど、だんだんと難しいことができるようになっていく。これは似ていると思います。

 また例えば、ベンチャー経営者が人を雇う際に失敗して、解雇してしまったとします。それで僕が「ダメじゃないか」と叱っても、いいことは何もありません。やはりそこは、「何がダメだったと思う? そうだよね。次はもっといい人を雇おうね」と建設的な話をしないと、その経営者は次に人を雇えなくなってしまいます。「また失敗するんじゃないか」と不安になってしまいますから。

 これも子育てと同じで、せっかく挑戦したのに「お前が分かってないから失敗した」と詰めてしまったら、起業家はどんどんと萎縮してしまう。そして毎回、僕の顔色を見るようになって、結局は何もできなくなってしまうんです。

 それは僕たちのような起業家支援の人がやることではないと思っています。そうではなくて、僕がやるべきことは「失敗しても大丈夫だよ」「お金がなくなったら僕がカバーしてあげるよ」くらいのことを伝えることでしょう。つまり、絶対的な安心ゾーンをつくってあげる。

 それは子育てと同じですよね。子育てだって、家や両親という絶対的な安心ゾーンがあって初めて「何をやっても大丈夫だ」と安心できますよね。そういう点で似ています。

小沼氏:子育ての場合、温かく見守る一面と厳しく接する一面が必要になります。ベンチャーキャピタルにも、その要素はあるんですか。

伊佐山氏:ありますよ。厳しいときは厳しくしなければいけません。ただそれも、幼稚園児に厳しくするのと、小学校6年生に厳しくするのでは違います。飴(あめ)と鞭(むち)は相手の状況によって変えていかないといけません。そこは、人を育てるのも起業家を育てるのも一緒です。

 唯一違うのは、不謹慎ですが、起業家の育成では失敗が結構、許されるというところです。起業家が失敗しても、「アンラッキーだったよね」で済まされます。こちらはお金を出して、応援して全力で手伝った。それでもうまくいかないことはある。実際、ベンチャーはそんなケースが9割以上で、みんなががみんな、うまくいかないわけです。非常に残念な、憂鬱になることばかりです。

 一方、子育てには失敗が許されないプレッシャーがあります。その失敗で子どもが路頭に迷うようなことになったら、取り返しがつかないですから。そういう意味では、実践していることは似ているのですが、質的な違いはありますね。

小沼氏:そうなってくると、子育ての方がリスクアバース(危険回避)な選択になるような気がします。

伊佐山氏:リスクを取るタイミングには気を付けます。企業の場合は7年以内にしごかなければいけませんよね。けれど子育ては、7歳までにダメでも、もうちょっと待ってあげようということができます。

小沼氏:時間軸の長さもあるってことですね。

伊佐山氏:早熟な子は早熟でいいと思います。ただみんながみんな、天才になるタイミングが大学受験でなくてもいいと思います。どんなにいい大学に行っても、その後で怠けた人は、確実にダメになっています。

 僕は浪人も経験して、苦労して、何とか大学に入りました。そして、その後も勉強し続けたので、(怠けた人とは)すさまじい差になるわけです。40歳とか50歳になったからといって勉強をやめるわけではありません。勉強は一生続けないといけないと思っています。

 子育ては、子どもが生きている間を考えてバランス良くできるけれど、ベンチャー支援は時間が区切られてしまいます。お金がなくなったら終わりというケースもある。ですから、コンセプトは同じなのだけれど、制約要因は大きく違いますね。

(続きは2019年5月14日公開予定)