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 「オトコが育児に参加するのが当たり前」の時代に変わりつつある。旬の経営者や学者、プロフェッショナルたちも、自らの育児方針や育休取得についてパブリックに言及することが増えてきた。優秀なリーダーたちは、我が子にどんな教育を与えようとしているのか。また自身はどう育てられたのか。そしてなぜ、育児について語り始めたのか。

 4月9日から6週にわたって紹介しているのは、2018年秋に開催したイベントの様子だ。

 本連載を1冊にまとめた『子育て経営学』の発売を記念して、本書にも登場するWiL共同創業者CEO(最高経営責任者)の伊佐山元氏と、NPO法人クロスフィールズ代表理事の小沼大地氏が登壇。本連載の著者であるノンフィクションライターの宮本恵理子氏がファシリテーターとなって、実際に2人の子育てについて話を聞いた。

 今回は、「子育て経営学」イベントリポートの4回目。今回のテーマは「子育て」と「ベンチャー育成」の共通点について。起業家を育てるのと、子どもを育てることには共通項が多いという。そして両方とも、必ず必要となるものがある。それは何なのか。

イベントに登壇したWiL共同創業者CEOの伊佐山元氏(写真右)とNPO法人クロスフィールズ代表理事の小沼大地氏。伊佐山氏は、専業主婦の妻と、1人の大学生の娘、3人の息子たちの6人家族。長女は2017年、米スタンフォード大学に入学した。小沼氏は共働きの妻と、男女1人ずつの子どもの4人家族だ
本連載に登場した、気鋭のビジネスリーダーやプロフェッショナルなど10人の子育て論をまとめた『子育て経営学』

宮本氏:せっかくなので、お二人でお互いに聞いてみたいことなどはありますか。

伊佐山氏:では、私からいいですか。小沼さんが手掛けているNPO法人クロスフィールズでは、トレーニングの一環として、社会人を新興国に送っていますよね。実際にビジネスパーソンを海外に送ってみると、彼らはどのくらい追い込まれて変わるものなのでしょうか。何が一番の成果だと思いますか。

小沼氏:僕にとって「教育」は自分のライフミッションで、教師になりたいと思っていました。今、クロスフィールズでやっていることは、20~30代のビジネスパーソンの方々にインドやインドネシアといった新興国に行ってもらって、そこのNGO(非政府組織)で働いて現地に貢献することで、その人たちのリーダーシップだとか、生き方に影響を与えていくといった仕事です。

 僕は、人間はいくつになっても変われると思っていて、最近では50~60代の方にも新興国へ行ってもらっています。そして皆さん、実際に変わっていくんですね。

 その人が変わるか変わらないか。ここには2つの要素があります。

 1つ目は、自分が変わることに対して準備ができている状態かどうかということ。そして2つ目が、適切な刺激が来るかどうか。

 中国には「啐啄同時(そったくどうじ)」という言葉がありますよね。ひな鳥が卵から孵化(ふか)するには、ひな鳥が殻の中からたたくタイミングと、親が卵の殻の外から卵に刺激を与えるタイミングが、同時にならないといけません。親が刺激を与えるのが早すぎるとひな鳥は死んでしまいますし、ひな鳥がコツコツとたたいていても親のサポートがなければうまく孵化できません。

 その時に大切なのは、「自分が変わることで、一体、どういうことをしたいのか」というビジョンがあることです。

 「英語が話せるようになりたい」ということよりも、「こんなことがやりたい。そのためには英語が必要だ」となっているか。さらに言えば「この会社で、こんな大きなことを成し遂げたい」と夢を抱いているのと、「会社でちょっとだけ昇進したい」と思っているのでは全然違います。つまり、いかにしっかりと動機づけをするかということなのだと思います。

 それも自分が「コンフォートゾーン」から出るくらいの刺激を与えることが大事だと思っています。僕たちの事業で言えば、これまでとは全く違う環境の「住む場所」「働く人」「ミッション」を与えること。そんな環境をしっかり与えると、人は本当に変わっていきます。

 子育てにも同じようなことがあって、子ども本人にどういう内発的な動機付けがあって、同時に親からのどんなインプットがあるのか。これも両方そろうことが大事だと思っています。

 伊佐山さんは、『子育て経営学』の中でも、子育てとベンチャーに投資をする方法は似ているとおっしゃっていました。似ている部分が多い半面、異なる点も結構あるのではないでしょうか。

 特に起業家の場合は、「今」活躍している人ですが、子育てだと20年後、30年後の社会に活躍する人を育てなくてはいけません。時間軸も違うのかなと思っています。

伊佐山氏:ベンチャーといっても、僕が得意にしているのは、まだ活躍していないような起業家を育てることで、いわゆる「アーリーステージ」のベンチャー経営者です。もちろん、ある程度、成功して認められている、成熟したベンチャー起業家を支援する仕事もあります。

 けれど僕が一番時間を使ってきたのは、「世の中の問題を解決したい」という情熱は強いのだけれど、経営の経験がないから、どこから始めればいいのかも分からないし、お金をどう使って夢をかなえ、さらにはそれを永続的に続けられるようなビジネスモデルにするのか分からない、というような起業家を育てることでした。それが、僕がやってきた仕事です。