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「働くこと」を身近に感じさせる

娘さんたちにとって、お父さんの仕事がとても身近なのでしょうね。

田中:基本的に、全部見せています。講演や講義に使うパワーポイント資料も全部見せますし、「この背景、何色がいいと思う?」と娘たちとワイワイ“合作”することもしょっちゅう。

 「この資料をつくるのに何時間かかったっけ? 講演に行くのに、行き帰りも含めて何時間かな? それでもらえるお金はこれくらい。時間にしていくら稼げて、パパにとってどういう価値になるんだろう?」と問いかけて、一緒に考えます。「どうしたらいいかな?」と意見を聞いてみることもします。

 働くことを自分には関係のない遠いこととして認識させないように心がけています。これからはどんな職業も、「時間の投資、その価値の測り方」を身につけていかなければいけない時代です。

早期キャリア教育を日々実践されていることがよく分かりました。ご経歴を見ると、ご長女が生まれたのはメルボルン大学で在外研究をされていたときですか?

田中:そうです。妻も一緒に生活していましたので、メルボルンの公立病院で出産しました。あちらの分娩は、基本的にパートナーが立ち会いますから、私も分娩室で通訳兼サポーターとして。

 ただ通訳といっても、壮絶な状況で使われる用語は、至極シンプルで「プッシュ!」「ハード!」というやりとりで、冷静ではいられない状況でしたけれど、命の誕生の瞬間に立ち会えたことは、私にとって忘れられない体験になりました。

 しかし感動にひたる間もなく、胎盤を処理する手術がすぐに必要になって、妻が別室に連れていかれまして。私の腕の中にホカホカの赤ん坊が残されて3時間。時々、看護師が見にきてくれましたけれど、「死んでしまわないだろうか」と気が気ではありませんでした。生まれた直後の赤ん坊を父親が廊下で抱き続けるというシチュエーションは、まず日本だと考えられないかなと。

 あの日こそ、私の子育てが始まった日。かよわいけれど、とても大きなものを抱えたのだと新たな出発点を感じながら、朝を迎えました。

最後に、ご自身にとって「子育て」とは。

田中:「感性を磨くコラボワーク」です。親から子へ教えるものではなく、一緒につくりあげていくものです。娘たちに伝えるだけでなく、私自身も“いつでも変われる自分”を娘たちの成長から学び、磨き続けています。

 「プロティアン・キャリア」の成功条件は、過去の経験を資産として蓄積しながら、新たな活躍の場を切り開いていくこと。経験の積み重ねが、その人でしか成し得ないストーリーになって、環境適応力の高い唯一無二の人材になっていく。いい意味でのフットワークの軽さを身につけて、娘たちや妻と共に、私自身も自己変幻していきたいと思います。

■子育てとは?

本連載に登場した、気鋭のビジネスリーダーやプロフェッショナルなど10人の子育て論をまとめた『子育て経営学』

 本連載「僕らの子育て」が1冊の本になりました。新しい時代を担う若手経営者たちや、様々な業界のプロフェッショナルたちが、どのように「育児」と向き合っているのか。また子育てと仕事(組織運営や人材育成)との関係は——。

 注目の経営者たち10人へのインタビューを通して、驚きの実態が見えてきた!

◇学校はあえて「公立」。?多様性ある環境で、リーダーシップを学ばせる

◇スマホは3歳から。?失敗も含めて、早くから体験したほうがいい

◇経済の仕組みは「メルカリ」を通してレクチャー

◇単身赴任でも、LINEを使って毎日コミュニケーション

◇スポーツはサッカーとゴルフ。サッカーで友達を増やして、ゴルフで忍耐力を養う

◇「オールA」より、B・C混じりの成績をほめる。?あえて不得意なことに挑戦!

◇「将来有望」なスキルを身につけるより、「大好きなこと」を見つけさせる

◇一緒にいられる時間が短くても、「濃く」「深く」愛していく

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