「オトコが育児に参加するのが当たり前」の時代に変わりつつある。旬の経営者や学者、プロフェッショナルたちも、自らの育児方針や育休取得についてパブリックに言及することが増えてきた。優秀なリーダーたちは、我が子にどんな教育を与えようとしているのか。また自身はどう育てられたのか。そしてなぜ、育児について語り始めたのか。
連載23回目に登場するのは、楽天の常務執行役員兼チーフ・ピープル・オフィサー(CPO)を務める小林正忠氏。CPOというと聞き慣れないが、楽天に関わる「人」を幸せにするのが、小林氏の仕事だ。楽天の創業メンバーであり、「人が幸せになるのが大好き」と公言する小林氏。家庭ではどのようなスタイルで子どもたちと向き合っているのか、話を聞いた。今回はその前編。
なお小林氏は2019年2月18日〜21日に福岡で開催される「ICCサミットFUKUOKA 2019」のプログラム「子育て経営学— 私たちは子供をどう育てていくのか?」に登壇。本連載の初回に登場した早稲田大学大学院の入山章栄准教授らとともに、子育てと経営の共通点などについて語り合う。

1994年、慶應義塾大学をSFC第1期生として卒業。1997年、三木谷浩史氏らと共に創業メンバーとして楽天に参画し、ショッピングモール事業責任者を務める。営業部門を始め、大阪支社、マーケティング部門、国際事業部門などの立ち上げを行いながら、6人から1万人超への組織の拡大に伴走する。2012年より米国本社社長、さらに2014年よりアジア本社社長(シンガポール在)を歴任し、2017年末より現職。母校の慶應義塾大学に「正忠奨学金」を創設するなど、次世代の育成にも注力する。2011年、世界経済フォーラム Young Global Leadersに選出された。取材時、47歳。都内在住。専業主婦の妻、小学生から高校生までの2男3女との7人暮らし。(取材日/2018年12月14日、撮影/鈴木愛子)
「セイチュウさん」こと小林さんは、楽天の創業メンバーとして20年以上にわたって、日本発のインターネット企業の発展を率いてきました。現職の肩書きは「チーフ・ピープル・オフィサー(CPO)」とのことですが、まずはこのCPOという役割について教えてください。
小林氏(以下、小林)::文字通り、楽天に関わる「人」を幸せにする責任者です。社員だけではなく、その家族、取引先のみなさまやお客さま、株主の方々、ビジネスパートナーである地方自治体のみなさまなど、国内外問わず、楽天に関わる「人」が私の応援する対象です。1年ほど前にこの役職に就いた時、いろんな人から「セイチュウさんらしいね」「セイチュウさんにぴったりだよ」と言われました。そして実際にやってみて思うのは、まさに私の天職だ、と。
私はもともと、人が大好きでした。「人が好きです」という自己紹介そのものは、誰でも言いそうなことかもしれません。けれど私の場合は、「人が幸せになるのが大好き」という少し違う感じです。その人の人生が、より幸せになるのをサポートするために行動を起こしたくなる性分なんです。
これまでに1万人以上を面接してきましたが、その度に、相手の人生の夢を聞いて、その夢を叶えるためのきっかけづくりができないかと考えてきました。そんなことが好きなんです。
仕事の「目標」だけではなく、人生の「夢」。例えば「どんな家族を持ちたいか」「どんな人生を歩みたいのか」というのも、その人のキャリア支援には不可欠な要素だと思っています。
楽天の株式上場後に第2、第3の会社をつくるのではなく、楽天の創業期から一貫して、一つの会社に在籍し続けてきたという経歴も珍しいかもしれません。
小林:なんて我慢強いんだろう、と自分でも思います(笑)。でも、やっぱり仲間に愛着があるのかな。
一緒に働く仲間に笑顔になってほしいと強く思うと、自然と相手に関心が向くものです。会社規模が数百人くらいの頃までは、社員のほぼ全員の誕生日と入社日を完全に覚えていました。あ、今、そこを通った彼は1999年9月1日入社です(笑)。その昔は「今日、誕生日だよね。おめでとう!」と伝えると、みんなビックリして「覚えてくださっていたんですか!」と感動してくれました。ただ最近ではフェイスブックに誕生日の通知機能があるので、その価値は目減りしましたが(笑)。
今でもメッセンジャー1本で、すぐに社員とランチするのが日常です。一緒にご飯を食べながら「これからどんなことしたいの?」「10年後はどうなっていたいの?」と耳を傾けています。
そういった「人育て」のスキルは、ご自身の子育てにも生かされているのでしょうか。お子さんは5人いらっしゃるそうですね。
Powered by リゾーム?