見落としてはいけない「継続しやすい」という観点

 3. そしてこの、「継続しやすい」というのが最も重要なポイントであり、DIRECT試験で図らずもつまびらかにした最大の注意点だと私は考えます。

 確かに糖質制限食は、最も減量効果が高いのですが、試験開始から5カ月後ぐらいをピークにして、少し体重が戻っていきます。これはカロリー制限食も同様です。

 本試験の目的は、各食事法の効果を明らかにすることですが、2番目に大切なメッセージは、「各食事法だけを厳密に続けていくことは難しい」ということだと私は考えます。

 前述したように、そもそも各食事法を2年間完遂したのは、カロリー制限食で90.4%、地中海食で85.3%、糖質制限食で78.0%であり、それ以外の人たちはドロップアウトしているのです。それらのデータも含めれば、特に完遂率が低い糖質制限食は、もっと効果が弱まってしまうでしょう。

 実際に糖質制限食は継続が難しく、1年後にはカロリー制限食との体重減少効果の差が消えてしまうという報告もあります(2)。

 確かに「減量を試みて、早く結果が出る」ということは一見すると好ましいことです。しかしこの結果を見る限り、だからといって、それがモチベーションを維持し続けることに成功している、とは言えません。

 そもそも肥満も一朝一夕に生じたものではありません。何年にもわたって、少しずつ体重が増えてきたという人がほとんどでしょう。であれば、肥満の解消にも、それ相応の時間をかけるべきなのです。

 例えば高血糖を急激に是正すると、糖尿病性網膜症が悪化することが医学的にも分かっています。長年続いた高血圧を急激に下げれば、やはり立ちくらみやふらつきが出てきます。体は長年かけて少しずつ肥満の状態に適応してきたのだから、肥満の解消にもゆっくり適応させながら、ソフトランディングさせるべきなのです。

 急激な減量はリバウンドを招きやすく、リバウンドすると減量に対する意欲や自尊心を失う結果になるのも非常に有害です。

 肥満を解消することは、短期的に成功すればいいという話ではありません。「できるだけ健康で人生100年時代を乗り切る」ためには、とにかく持続可能であることが大切になります。

 拙速に結果を追い求めるのではなく、長めの射程を持った考え方、戦略が必要になってくるのです。

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【参考文献】
(1)Shai I, et al.; Dietary Intervention Randomized Controlled Trial (DIRECT) Group: Weight loss with a low-carbohydrate, Mediterranean, or low-fat diet. N Engl J Med. 2008; 359: 229-41.
(2)Effects of low-carbohydrate vs low-fat diets on weight loss and cardiovascular risk factors: a meta-analysis of randomized controlled trials.
Nordmann AJ et al. Arch Intern Med. 2006 Feb 13;166:285-93.
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