やっぱり、トランス脂肪酸には気を付けよう

 不飽和脂肪酸のうち、炭素の二重結合の両翼が180度回転している構造のもの(いわゆる異性体)をまとめてトランス脂肪酸と呼んでいます。

 これは純粋に構造の問題で、一価不飽和脂肪酸にも、多価不飽和脂肪酸にも普通の脂肪酸とトランス脂肪酸が存在します。

 一方、二重結合のない飽和脂肪酸にはトランス脂肪酸は存在しません。ですので体に悪いと言われているトランス脂肪酸は、体に良いと言われている不飽和脂肪酸にしかないという、ちょっと意外なパラドックスがあります。

 トランス脂肪酸はマーガリン、ファットスプレッド、ショートニングや、それらを原材料に使ったパン、ケーキ、ドーナツ、揚げ物などに含まれています。不飽和脂肪酸は、人工的に加熱するとできると言われていますが、牛肉など自然界のものにも存在しています。

 トランス脂肪酸は摂取しすぎるとLDLコレステロール(悪玉コレステロール)が上昇し(同9) 、その結果、心疾患を引き起こすと言われています(同10)。健康被害をもたらすリスクのあるトランス脂肪酸なので、世界保健機関(WHO)は、トランス脂肪酸の摂取を総エネルギー摂取量の1%未満に抑えるように勧告しています。

 では日本人の現状はどうなのかというと、様々な報告があるものの、おおむね日本人のトランス脂肪酸の平均的な摂取量は1%未満と、諸外国に比べて低いことが分かっています。(同11)。

 トランス脂肪酸による健康被害については、そのほかの危険因子(喫煙、糖尿病、高血圧なと)に比べると小さいのではないかと考えられています。とはいえ、これも「平均的な日本人は」ということなので、脂質や菓子などをたくさん食べている人は1%を超えている可能性があり、その場合は注意が必要です。

 もう一点気になるのは、ヨーロッパでは、トランス脂肪酸摂取量が多いほど子どもの喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎の発症率が高いことが報告されているのです(同12)。

 日本人の子どもに少なくともアトピー性皮膚炎が増えているのは間違いありません(同13)。トランス脂肪酸の影響についてはまだ評価が定まっていませんが、ある程度留意をしておいた方がいいのは確かでしょう。

 このように脂肪酸も多少複雑で、「飽和脂肪酸が悪くて不飽和脂肪酸が良い」といった単純な図式ではありません。

 脂質の摂取量が極端に多かったり、偏っていたりしなければ、そこまでナーバスになる必要はありません。ただ同時に、一価不飽和脂肪酸(オリーブ油)やn-3系脂肪酸(魚油)で悪い報告は今のところ聞かないので、それらを柱にして食生活を組み立てるのは有用です。

 地中海式の食事法がどの臨床試験でもおおむね良い結果を出すのも、ここに主因があるのかもしれません。

参考文献
  • (1)Hooper L et al. Reduction in saturated fat intake for cardiovascular disease. Cochrane Database Syst Rev. 2015 10;(6):CD011737
  • (2)Iso H et al. Fat and protein intakes and risk of intraparenchymal hemorrhage among middle-aged Japanese. Am J Epidemiol. 2003 1;157:32-9.
  • (3)Harris WS. n-3 fatty acids and serum lipoproteins: human studies. Am J Clin Nutr 1997; 65:1645S.
  • (4)Balk EM, Lichtenstein AH, Chung M, et al. Effects of omega-3 fatty acids on serum markers of cardiovascular disease risk: a systematic review. Atherosclerosis 2006; 189:19.
  • (5)Wang C, Chung M, Lichtenstein A, et al. Effects of omega-3 fatty acids on cardiovascular disease. Evid Rep Technol Assess (Summ) 2004; :1.
  • (6)Ananthakrishnan AN Long-term intake of dietary fat and risk of ulcerative colitis and Crohn's disease. Gut. 2014 May;63(5):776-84.
  • (7)Lin Y et al. Dietary habits and pancreatic cancer risk in a cohort of middle-aged and elderly Japanese. Nutr Cancer 2006;56(1):40-9.
  • (8)Andersen V Diet and risk of inflammatory bowel disease. Dig Liver Dis. 2012;44185-94.
  • (9) Mozaffarian D, et al. Trans fatty acids and cardiovascular disease. N Engl J Med 2006; 354:1601.
  • (10) Mozaffarian D, Katan MB, Ascherio A, et al. Trans fatty acids and cardiovascular disease. N Engl J Med 2006; 354:1601.
  • (11)新開発食品評価書 食品に含まれるトランス脂肪酸 食品安全委員会
  • (12)Weiland SK, et al. Intake of trans fatty acids and prevalence of childhood asthma and allergies in Europe. ISAAC Steering Committee. Lancet 1999; 353: 2040-2041
  • (13)厚生労働省「アトピー性皮膚炎の有症率調査法の確立および 有症率(発症率)低下・症状悪化防止対策における生活環境整備に関する研究」より
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