前回(こちら)は、日本企業の競争力そのものを「パクった」かのような企業が、巨大な「量」の力で本家を圧倒していく様子をご紹介したが、これと同じような構図の展開が、最近あちこちで見られるようになっている。

 ことは商売の話とは限らない。日本人の愛してやまない桜、あの春に咲く桜の花であるが、これも将来、ずっと日本のシンボルでいられるか、私はあまり楽観していない。

 近年、中国で桜の花の人気が急上昇している。中国のメディアに「中国人は一体いつから桜の花がこんなに好きになったのか」という記事が載るくらい、春になると桜の花を愛でる中国人が増えている。実は中国の「国花」はまだ正式決定しておらず、20年以上前から「牡丹派」と「梅派」の議論が拮抗してきた。このことからもわかるように春の花としては中国では古来、桜より梅のほうがポピュラーだった。

 しかしこの10年ほど、桜の注目度がにわかに高まり、中国各地の「桜の名所」(そういうものが実はたくさんあり、どんどん増えている)がメディアで大きく特集され、多くの人が花見に行くようになっている。 おそらくそこには日本のアニメの影響や日本を訪れる中国人の数が増え、桜の美しさ、「散る美学」みたいなものが広く知られるようになったことが大きく作用している。

日本にゆかりの桜の名所も

 毎年春先になると、中国の旅行関連サイトやブログなどに「中国10大桜の鑑賞地」といった内容の記事が出る。

 選者によって多少の差異はあるが、

・武漢大学キャンパス(湖北省武漢市)
・玄武湖(江蘇省南京市)
・太湖畔(江蘇省無錫市)
・玉淵潭(北京市)
・太子湾(浙江省杭州市)

 といったあたりが定番として上位に来る「桜の名所」である。このうち武漢大学の桜はかつて日本軍が武漢を占領した際に植えたものが起源とされ、無錫の太湖畔の桜も日本の日中友好運動の人たちが長年にわたって苗木の寄贈、植樹を続けてきた。海外ではワシントンDC、ポトマック川岸のソメイヨシノの並木が有名だが、中国の桜の名所にも日本にゆかりのあるところが少なくない。

次ページ 「桜を中国の国花に」