巨大な市場、「細かいこと」を気にしないお客
そして、その企業活動を支えているのが、中国という巨大な市場であり、会社の出自や商品開発の経緯など「細かい」ことは気にせず、品質が良くて安ければ躊躇なく購入する消費者である。そして、最初から完璧性を期すことをせず、ある程度の問題はあっても、まず量的な拡大を目指し、「存在感の大きさ」で市場を制してしまおうと考える中国人経営者の発想がある。
日本人はスジ論の人たちだから、「どうせパクリでしょ」という点を強調する。それは確かにそうで、間違ってはいない。
だが、そういう大方の日本人の見方をよそに、現実にこの企業は世界中で急速に店舗数、売上高を伸ばしている。日本経済新聞中国語版に掲載されたサンパウロ特派員、外山尚之記者の報告によると、ブラジルの人々はこの「名創優品」が日本ブランドだと疑っておらず、その高い品質とお洒落なデザインに感心、大人気だという(日経中文版2019年7月25日、記事はこちら)。
ちなみに堂々たる日本ブランドのユニクロは世界各国に2000店舗以上(中国だけで700店舗以上ある)を展開しているが、まだ南米には店がない。現実問題として、もしユニクロが将来、南米に進出したら、現地の人たちは「あれ、ユニクロのロゴは名創優品とソックリじゃないか」と思うだろう。量の大きさが威力を持つのはこういうところである。
本来、この「名創優品」のような戦略は日本の企業がやらなければいけなかったはずだ。このポジションは日本企業が立っているべき位置である。
しかし現実には、日本人、日本企業はこういうことが苦手だ。真面目なことは確かだが、何事も完璧主義の弊害で、まず一歩ずつ、確実に形をまとめるアプローチを取りたがる。これは日本人、日本企業の強みでもあり、それ自体、悪いわけではないが、「名創優品」のように「大きさ」「量の多さ」で既成事実をつくるというアプローチで攻めてこられると、商品の性質にもよるが、対抗するのが非常に難しい。
葉氏は今年4月、メディアのインタビューで「当社の商品は生活必需品ばかりだから世界のどこでも同じモデルで店を出せる。10万店は問題ないと考えている」と語り、「競合企業が出てくる心配はないか?」との質問には「現実には先行者のメリットは大きい。私たちと同じコストで同品質の生産、物流が可能な企業はないはずだ」という趣旨の回答をしている。
こういう現実にどのように向き合うか、真剣に考えなくてはならない。このあたりの問題を、明日お届けする後編で少し別の角度から考えてみたい。
「日本人と中国人の間には誤解が多い。
お互いが相違点を理解し、一緒に仕事をすれば
必ずWin-Winの関係になれる。
本書はそのためにとても役立つ」と
ファーストリテイリングの柳井正氏が絶賛!
本連載と、10年に及ぶ「wisdom」の連載の中から厳選・アップデートしたコラムを「スジと量」で一気通貫に編集。平気で列に割り込む、自慢話ばかりする、自己評価が異様に高い、といった「中国の人の振る舞いにイライラする」「あれはスジが通らない」という、あなたの「イラッ」とくる気持ちに胃薬のように効き、スッキリとする。ユニークな中国社会・文化論です。
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