「反日」後も変わらず「日本に学べ」

 一方、中国社会の方はどうかというと、確かに反日デモの際には熱くなった人は一定数いたが、この手の政治的な話で逆上する人は全体から見ればわずかなので、私はこの事件の前後を通じて主に上海にいたが、全体として以前に比べて反日感情が大きく高まった実感はない。

 それどころか焼き打ちまで起きた反日デモからわずか2年後、2014年ごろから日本を訪れる中国人観光客は急激に増え始め、翌2015年2月の旧正月(春節)休みには「爆買い」という言葉が日本で一種の流行語になるまでになった。その後、現在に至るまで中国の「日本ブーム」は高まる一方である。中国国内の対日イメージは間違いなく有史以来と言っていいほどの高いレベルに達している。

 要するに政治的な波風を経ても、ほぼ一貫して日本に好感を持ち続け、「日本に学べ」と言っているのは中国人の方で、日本人はといえば、商売になるからとりあえず歓迎してはいるものの、基本的に醒めた視線が継続している。その落差は非常に大きい。

「日本が心配だ」という中国人たち

 どうしてこのような対照的な反応になるのか。その根底にはこのコラムで繰り返し説明しているところの、「量=現実的影響の大きさ」で発想する中国人――という考え方の枠組みが存在している。

 尖閣諸島の事件後、しばらくして事態がいくらか落ち着いた頃、私は以下のような趣旨の文章を書いたことがある(「力関係」か「正しさ」か――中国と向き合う難しさを考える、「wisdom」2014年4月11日、登録でpdfダウンロードが可能)。

 私の周囲にいた3人の中国人の、一連の事件についての反応を綴った内容で、大意は以下のようなものである。

 1人は、たまたま乗り合わせたタクシーの運転手さんである。私が日本人であることを知ると、彼は尖閣諸島の問題に話を向けてきた。

 「これは政治の話だから、オレはどっちが正しいとか悪いとかは思わない。両方に言い分があるに決まっている。日本人も別に嫌いじゃないよ。ただ日本政府が良くないのは状況が読めてないことだ。昔、中国は弱くて、日本に頼らなきゃならなかった。今は日本がなくても他の国といくらでも商売ができる。そうだろ? それなのに日本政府は昔と同じような態度でいる。それじゃダメだよ」

 2人目は、日本での滞在経験も長く、日本で大学院まで出て今は中国に戻って働いている古くからの友人である。今も日本との行き来があり、日本人の考え方もよくわかっている。いわゆる「知日派」の知識人だ。彼はこう言う。

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