田中信彦さんの「wisdom」での連載(現在の最新版は「次世代中国 一歩先の大市場を読む」から)と、こちらの「『スジ』の日本、『量』の中国」をまとめた書籍『スッキリ中国論』は、幸い多くの方からご好評をいただき、版を重ねることができました。

 スジと量、という視点で日本と中国それぞれの社会のふるまいの底にある「当たり前」を比較する、ユニークな考察に加えて、改めて田中さんに、別の視点や考え方も含めて、日中社会の現在について筆を執っていただきたいとお願いし、不定期ですが連載を再開できることとなりました。

 単行本ともども、ぜひご愛読いただければ幸いです。
 よろしくお願い申し上げます。

 (日経ビジネス編集部 山中浩之 拝)

(写真:AP/アフロ)
(写真:AP/アフロ)

 やや旧聞に属するが、日本の海上自衛隊の護衛艦「すずつき」が2019年4月21日、中国海軍の設立70周年を記念する活動に参加するため中国山東省の青島港に入港した。

韓国が拒んだ旭日旗を中国では掲揚

 韓国で18年10月に行われた観艦式では、韓国政府が自衛艦による旭日旗の掲揚を拒み、日本政府は艦船の派遣を見送った経緯がある。そのため今回の中国観艦式では中国側が旭日旗掲揚を認めるか否かに日本国内では関心が集まっていたが、中国側は特に異論をはさまず、「すずつき」は艦首に日の丸、艦尾に旭日旗、艦橋上部に中国国旗を掲げて入港した。中国国内では旭日旗掲揚問題についての報道は目立たず、国民の関心も高くなかった。

 「すずつき」は4月23日に開かれた観艦式に参加し、24日には青島港で他国や中国海軍の艦艇などとともに一般公開された。「すずつき」は10数カ国の艦艇のうちトップクラスの人気で、5000人を超える列ができ、自衛官の皆さんは笑顔で市民との記念撮影に応じていたと報道されている。

 この自衛艦の青島訪問のニュースを見ていて思い出したのは、ほんの数年前、日中が厳しく対立していた頃のことである。

尖閣事件、冷え込んだ日中関係

 振り返ってみると、日中関係が険悪化する転機となった尖閣諸島の漁船衝突事件が発生、日本の当局が中国人船長を逮捕(後に処分保留で釈放)したのが2010年9月。その後、私有地だった尖閣諸島を国有化したのが2012年9月のことである。

 船長逮捕の際には、中国政府は中国国内にいた日本人ビジネスマン4人を「許可なく軍事管理区域を撮影した」との理由で身柄を拘束、さらにはレアアースの日本への輸出を事実上止めるなど常軌を逸した対応を見せた。続く「国有化」に対しては中国政府系メディアが大々的な対日批判を展開、それに呼応して中国各地で抗議活動が発生、一部が暴徒化して日本関連の商店や日系企業の工場を破壊、略奪・放火などの行為に及んだ。

 中国のこうした反応が日本社会に与えた衝撃は大きく、「とんでもないことをする国」「怖い国」として中国のイメージは一気に低下、その後、今に至るも大きく回復してはいない。その背景には、急速に強大化する中国が本気で日本を潰しに来るのではないかという恐怖感のようなものがあったと思うし、それは今もあるだろう。

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